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千利休 本覺坊遺文:熊井啓の映画



熊井啓の1989年の映画「千利休 本覺坊遺文」は、千利休の死の謎をテーマにした作品。熊井は千利休が好きと見えて、1954年には千利休を描いた「お吟さま」を作っているが、それは今東光の原作で、利休本人よりも利休の娘お吟に光をあてたものだった。それに対してこの作品は、井上靖の小説「 本覺坊遺文」が原作で、利休の弟子本覚坊が残したという架空の遺文をもとに構成したということになっている。その遺文には、利休生前の人間としての矜持や秀吉から賜わった死の事情があかされている。

それによると、利休は死を強制されたのではなく、自らそれを望んだという。利休の行った茶道は、単なる侘数寄や道楽などではなく、武人の死に体裁を整える行事であった。じっさい多くの武将が、戦いに臨んで利休の茶を喫し、死んでいったのである。だから茶道とは利休にとって、死と深いかかわりがあるのであり、そのような道に進んだ自分も、死を避けるわけにはいかぬ。むしろ自ら死を選ぶことによって、茶人として完成することができるのである。

そうした利休の死の哲学は、利休の弟子たる山上宗二や古田織部も共有していた。三人はかならず自ら死を選ぶことによって茶人としての己の生き方を完成しようと、かねてから盟約していた。

このような事情が、利休の愛弟子であった本覚坊によって明かされていく。本覚坊はその秘密を、利休生前の知己だった織田有楽斎にむかって明かすという構成になっている。その織田有楽斎を中村錦之助が演じ、利休を三船敏郎が演じている。錦之助は武将としての有楽斎を如実な雰囲気で演じているが、三船のほうはややぎごちない。三船には、裏表のあるインテリの役は似合わないのではないか。

映画の主人公は、あくまで利休の弟子本覚坊(奥田瑛二)である。かれの記憶の底から、安土桃山時代に生きたさまざまな人物像がよみがえってくる。どれも歴史上有名な人物なので、観客は歴史イベントのパレードを魅せられているような気持にさせられる。


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