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熊井啓の映画「海は見ていた」:深川洲崎の娼婦たちの意地と愛



熊井啓の2002年の映画「海は見ていた」は、深川洲崎の娼婦たちの意地と愛をテーマにした作品。日活90周年記念作品として、山本周五郎の小説をもとに黒沢明が脚本を書いた。純粋に娯楽作品として作られた時代劇であるが、娼婦に同情するような視線は、「サンダカン八番娼館」に通じるものがある。

遠野凪子演じるお新という娼婦を中心に、同輩の娼婦たち数人の生き様を描いている。お新は男に惚れっぽい女で、それがもとで波乱を巻き起こす。一方清水美砂演じる姉御の菊野は女としては腰が据わっている。その菊野のひものような男が、菊野を別の女郎宿に売り飛ばそうとしたことから、一波乱おこる。そのころ、新しい男に入れ込んでいたお新は、その男と世帯を持つことを夢見ていたのだったが、菊野が窮状に陥っているところをみたお新の男が、ひもの悪党を刺し殺してしまう。普通なら、極刑になるところだが、折から深川一帯には巨大な津波が押し寄せていて、殺した男の死体ともども町全体を押し流してしまう。

それは、お新や菊野の窮状を、海が見るに見かねて、すべてを水に流してくれたのだ、というようなメッセージがつたわってくるように作られている。黒沢晩年の変な正義感が盛られた作品である。

というわけで、黒沢にとっても、熊井にとっても、あまり褒められた作品ではないかもしれない。



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