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江分利満氏の優雅な生活:岡本喜八



「江分利満氏の優雅な生活」は、1960年代の日本の典型的なサラリーマンの生活ぶりを描いた山口瞳のオムニバス風小説である。主人公の「江分利満氏」とは、英語のエヴリマンをもじったもので、どこにでもいる平凡なサラリーマンを象徴している。小説は随筆風なもので、筋書きらしいものはないが、それにある程度の筋書きを持たせたうえで、岡本喜八が映画化した。

映画化された世界での江分利満氏は、サントリーの宣伝部員ということになっている。その江分利満氏が、出版社のプロデューサーにおだてられて小説を書き、それが直木賞を受賞する過程を描いている。その小説家江分利満氏は原作者の山口瞳を意識しているらしく、映画のなかでの風貌や立ち居振る舞いの特徴も山口を彷彿させるものだったようだ。

原作が当世のサラリーマン生活を謳歌している様子は映画でも十分に反映されている。それを現在の視点から見ると、高度成長に乗りかけたかつての古き良き時代の日本がノスタルジックに描かれているということになろう。映画の中でのサラリーマンたちは皆基本的に楽天的で、明日への希望が彼らの生き方を支えている。こうした生活感情は、世の中が順調で、右肩上がりの趨勢をもっていたことを反映したものだ。

一方、過去へのこだわりも感じさせるようになっている。江分利満氏は大正15年生まれで、昭和という時代と共に生きて来たことになっており、時代の雰囲気に敏感だった。とりわけ戦争に対しては否定的で、もう二度とこんなバカなことはしたくないと思い、それを大きな声で主張したりもする。これは原作にはなかったことで、岡本のこだわりなのだと思う。

この映画は興行的には失敗で、わずか一週間で上映が中止されたりしたが、それはこの映画の中の理屈っぽいところが観客に敬遠されたからだと思われる。映画には多少の理屈も許されるが、余り理屈っぽいのは嫌われるものだ。

岡本喜八は「独立愚連隊」シリーズでは戦争へのこだわりを描き、観客からも一定の評価を受けていたのだが、それは戦争へのこだわりを喜劇タッチでさらりと処理したからで、この映画のように、正面から戦争の意義を観客に考えさせようとするものとは違っていた。だからこの作品は岡本の勇み足と言えなくもない。

主人公の江分利満氏を小林圭樹が演じている。この俳優はこういう役が似合っているようだ。妙に軽佻浮薄なところがあるくせに、やけに理屈っぽく、意味のないことにこだわるといった役柄である。




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