壺齋散人の 映画探検
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降籏康男「駅 STATION」:警察官の職業倫理



降籏康男は高倉健と組んで多くの東映やくざ映画を作ったが、1978年に東映を退社してフリーになってから、やくざ映画以外の作品に意欲を持った。高倉もやくざ映画で埋もれることに俳優としての限界を感じていたので、そうした降籏に共感して、彼の映画に引き続き出続けた。1981年の作品「駅 STATION」は、彼らの最初の本格的なドラマ映画である。テーマは警察官の職業倫理といったものだ。

北海道警の一警察官の生き方がテーマだ。高倉健演じる巡査部長三上が、凶悪犯罪と向き合いながら何人かの女性たちと不幸な関係に陥るところを描いている。彼は拳銃の名手ということになっており、その腕を買われてオリンピックにも出場するのだが、一方ではその腕で凶悪犯人を射殺する。日本の警察はめったに犯人を射殺することはしないのだが、この映画のなかの三上巡査部長は躊躇なく犯人を射殺するのだ。

互いに関連のある物語をオムニバス式につないでできている。第一部は「直子」と題して、不倫をした妻と離婚するところから始まり、凶悪犯を追っていた同僚で、オリンピックの仲間でもあるベテラン刑事が凶悪犯に射殺されるところで終わる。第二部は「すず子」と題し、連続警官殺害犯を追跡し、最期にはその犯人を逮捕するところで終わる。その舞台は北海道の増毛駅周辺で、駅前の食堂で働いている若い女がその凶悪犯の妹ということになっている。第三部は「桐子」と題して、久しぶりに増毛を訪れた三上が、偶然入った駅付近の飲み屋の女将とかりそめの恋に陥るところを描く。

三上巡査部長の射殺シーンは三つ出てくる。一つ目は、札幌らしい街で、人質をとった銀行強盗の立てこもり事件が起きた際に、三上は中華食堂の店員を装って犯人たちに近づき、犯人のすきをついて同時に二人を射殺する場面。二つ目は、営林署らしいところで犯人捜査中に、同僚が犯人に射殺されたことへの反射的な動きとしてその犯人を射殺する場面。三つ目は、増毛に現われて昔の女である飲み屋の女将の家に隠れていた犯人を、その女将の目の前で射殺する場面。

このうち三つ目の射殺は思いがけずとった行動だった。三上巡査部長は休暇で実家に戻る途中偶然この女将と知り合い、そこでかりそめの恋に陥るのだが、その女将の前にあらわれた男と言うのが、第一部で同僚の刑事を射殺した男だったのだ。三上は職務外ではあったが、この男を見逃すわけにはいかず、女将の暮らしているアパートの部屋に無理に入り込んで男を射殺する。男を射殺された女将は三上に対して複雑な思いを抱く。三上はそんな女将になんとか理解して欲しいと思うのだが、終に理解されないままにその前を立ち去ってゆく、というわけなのである。

事実をもとにしたものではなく、降籏の純粋な想像になるものだ。この映画の見どころは、ストーリーの展開というよりも、高倉健の寡黙な表情にある。その表情を以て高倉は東映のやくざ映画を支えてきたわけだが、いまやその表情が高倉健という俳優のトレードマークとなって、以後彼の強烈なイメージを形成することとなった。この表情を、高倉健自身がこだわって演じたのか、それとも降籏が特にそうさせたのか。どちらが先とも言えないほどに、この二人の結びつきは強いものだった。

「駅」という題名は、映画の主な舞台となった増毛の駅から来ているのだろう。その増毛の駅が、第二部では夏の季節に、第三部では冬の季節に彩られながら出てくる。木造の小さな駅舎であるが、まだ有人改札だ。



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