壺齋散人の 映画探検
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大林宣彦の映画:主要作品の解説と批評


大林宣彦は、少年少女が大人になってゆく過程を描き続けた。新旧の尾道三部作はその代表的なものである。それらの映画は、人間にとって普遍的な若者のイニシエーションを描いている点で、人々の共感を呼んだと言える。しかも、それをファンタスティックな雰囲気に包んで描いた。大林宣彦の映画の多くは、現実と空想とがまざりあい、そのふたつの世界の境界を自由にまたいで往き来する少年少女たちの幻想的な冒険がテーマである。

大林宣彦の名声を確立したのは、尾道三部作といわれるものだ。これは「転校生」(1982)に始まり、「時をかける少女(1983)、「さびしんぼう」(1985)と続く作品群で、いずれも大林の故郷尾道を舞台としている。その尾道に住む少年少女たちが、時空を自由に侵犯して奇想天外ともいえる体験をしながら、大人へとなっていく過程を描いた。

「ふたり」(1991)、「あした」(1995)、「あの、夏の日」(1999)も尾道を舞台としているところから、新尾道三部作と言われたが、前の三部作ほど尾道へのこだわりは感じさせない。というのも、その頃の大林は、他の町に関する郷土映画というようなものを作っており、とくに尾道にこだわらないようになっていたからだ。ほかの街を舞台としたものでは、観音寺を舞台とした「青春デンデケデケデケ」(1992)や小樽を舞台とした「はるか、ノスタルジー」(1993)があるが、後者は少女にセックスをさせる場面があったりして、心ある人の顰蹙をかったりもした。

一方、大林宣彦は、大人のセックスを描くことはしなかった。吉永小百合を主人公にした「女ざかり」のような映画も作っており、これには吉永がめずらしく裸になったりする場面もあるが、露骨な性描写はない。

2020年の作品「海辺の映画館」は、大林宣彦にとって遺作となったものだが、大林映画の集大成といってよいものだ。かれが生涯こだわった故郷の尾道を舞台にして、映画のスクリーンと現実世界を自由に往来するというファンタスティックな設定をもとに、戦争の非人間性について考えさせる作品である。大林は基本的には、エンタメ重視の作風であるが、ときに鋭い社会批判を感じさせることがある。この映画はそうした大林らしさが、もっともよく現れた作品である。

とのかく大林宣彦は、長編映画だけでも40本以上作っており、非常に多作な映画作家だった。しかもほとんどが少年少女のちょっとした冒険をテーマにしており、決して幅の広い作風ではない。にも関わらず多くの支持を集めた。独特の魅力があるからだろう。

ここではそんな大林宣彦の主要な作品をとりあげて、鑑賞のうえ適宜解説・批評を加えたい。


大林宣彦の尾道三部作「転校生」:入れ替わった高校生男女

大林宣彦「時をかける少女」:時空をワープする少女


大林宣彦「廃市」:福永武彦の小説を映画化

大林宣彦「さびしんぼう」:ファンタジックな初恋

大林宣彦「北京的西瓜」:草の根日中交流

大林亘彦「ふたり」:姉の幽霊に守られる妹

大林宣彦「青春デンデケデケデケ」:エレキギターに魅せられた少年たち

大林宣彦「はるか、ノスタルジー」:中年男と少女の恋

大林宣彦「女ざかり」:中年女の魅力


大林宣彦「あの、夏の日」:少年と祖父の心の交流

大林宣彦「この空の花 長岡花火物語」

大林宣彦「野のなななのか」:対ソ戦の歴史の一齣

大林宣彦「花筐」:太平洋戦争中の青春群像


海辺の映画館:大林宣彦の戦争批判映画


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