壺齋散人の 映画探検
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大林宣彦「ふたり」:姉の幽霊に守られる妹



大林宣彦は1980年代に尾道を舞台にした映画シリーズ、いわゆる尾道三部作をとった後、1991年にやはり尾道を舞台にした映画「ふたり」をつくった。後に尾道を舞台にした作品を二つ作り、新尾道三部作と銘打った。大林は尾道出身ということもあるが、尾道の町は絵になる風景が広がっているので、繰り返し映画化するだけの動機を与えてくれるということだろう。

一時人気沸騰していた作家赤川次郎の、同名の代表作を映画化したものだ。赤川は、この小説の映画化を長い間拒んでいたが、大林のオファーには、すぐさま応じたそうだ。小生は赤川の原作を読んでいないが、小説の筋にほぼ忠実に映画化したということらしい。

仲のよかった姉妹のうち、姉が交通事故で死んでしまう。その姉が、妹が危機的状況に陥るたびに、幽霊となって現われ、妹を勇気づける。妹はそんな姉に励まされながら、次第に大人に成長していくという筋書きである。妹を、これが映画初主演の石田ひかり、姉を中島朋子が演じている。そのほか母親を富司純子が、父親を岸辺一徳が演じている。富司純子はともかく、岸辺一徳の飄々とした演技ぶりがよい。

姉の幽霊が始めてあらわれるのは、妹が痴漢に襲われ、あわや強姦されそうになったとき。妹は姉の幽霊に励まされ、大きな石で痴漢の頭をたたき割り、危機を脱するのだ。その後も、学校でいじめられそうになったり、父親が小樽に転勤し、その留守中に家族が危機に陥ったりするたびに、姉の幽霊が現れて、妹を課題解決に向けて誘導する。この姉の幽霊は、一家の守護神的な存在なのだ。

父親は、小樽で一人暮らしをしているうちに、現地で別の女と懇ろになる。しかもその女が、父親が一時帰宅中に押しかけて来て、母親を悲しませる。父親のこうした浮気には、母親も娘たちも処置がないといった具合なのだ。一方、妹のほうは、以前姉の知り合いだった男と仲良くなり、男から将来の結婚をほのめかされたりもするが、まだ高校生の妹は、その申し出を断る。この映画は、結構長いスパンをカバーしていて、妹の中学生時代から、高校生の時代いっぱいを描いているのだ。

例によって尾道の町が、情緒豊かに写しだされる。その中に、親友の実家とされている旅館が出て来るが、海沿いにあるこの旅館は、魚信といって、かつて小生も泊まったことがある。その際、仲居から新藤兼人の有名な映画「裸の島」の舞台になったというような話を聞いたが、大林のこの映画のことは話題に上らなかった。実際に新藤の映画の舞台になった旅館は、魚信の隣にある旅館なのだから、その仲居はかなり混乱していたのである。

ともあれ、この映画は、単なる青春映画ではなくて、家族のあり方まで考えさせてくれる。



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