壺齋散人の 映画探検 |
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大林亘彦の1989年の映画「北京的西瓜」は、草の根日中交流をテーマにした作品。いまでは、日中関係は非常に険悪化していて、庶民レベルの対中感情も冷え込んでいるが、この映画が作られた1980年代の末頃は、日中関係は、政府レベルでも庶民レベルでも良好だった。この映画はそうした時代の雰囲気を背景にしており、いま見ると隔世の感がある。 東京の郊外、千葉県の一廓で八百屋を営んでいる家族と、中国人留学生たちの交流が描かれる。八百屋の亭主は、ひょんなことからある中国人留学生と仲良くなり、いろいろ助けてやったりするうちに、ほかの中国人留学生からもたよりにされ、そのうち大勢の中国人たちの面倒を見る羽目になる。その挙句に、八百屋の経営は傾き、家族や従業員からも愛想をつかされるのであるが、亭主は決してめげない。中国人への援助をし続けること数年。そのうち、故郷で錦を飾ったかつての留学生たちが、亭主の援助に感謝して、夫妻ともども中国に招き、謝恩会を催すといった内容だ。 色々な受け取り方があると思う。御人好しの日本人が中国人に付け入られたという見方もあるだろうし、善意はかならず報われるといった好意的な見方もあるだろう。とくに中国人は、受けた恩を決して忘れないというから、この映画のなかの亭主の善意が報われたというのはわかりやすい。 気になるのは、大林の癖が出て、ところどころ説教調になることだ。とくに八百屋の亭主が観客に向かって口上をたれるところは、あたかも自分こそが世界の正当な解釈者であるといわんばかりだ。その解釈は、もともとは天安門事件の批判を意識していたようだが、映画の中では天安門事件への言及はない。だから見ていてわかりづらい。謝恩会が開かれたのは1989年の6月になっており、事件の真っ最中だったわけだから、なんらかの形で触れた方がわかりやすかったのではないか。 |
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