壺齋散人の 映画探検
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周防正行の世界:映画の鑑賞と批評


周防正行は、「Shall we ダンス?」のようなエンタメ映画で観客をわかせる一方、「それでもボクはやってない」や「終の信託」といった社会派映画を通じて、人々に権力と人間のかかわり方についても考えさせた。とくに、「それでもボクはやってない」は、満員電車のなかで痴漢の嫌疑をかけられた青年が、無実を訴えて苦労するところを描いたものだが、その訴えがいまの日本の刑事システムのなかではなかなか取り上げてもらえず、客観的には無罪の証拠がありながら、有罪となる過程を描いたものだ。

日本の刑事システムが、いわゆる人質司法だとして、冤罪を生みやすい構図になっていることは、かねがね司法関係者から指摘されていたところで、この映画はそうした日本の刑事システムの異常さを問題として取り上げたものだ。この作品をきっかけとして、周防正行は日本の刑事司法のあり方について、機会あるごとに声をあげている。その声がすこしは届いたのかどうか、日産自動車のゴーン会長をめぐる事件で、多少は人質司法が見直される機運が出てきている。

「終の信託」も、日本がかかえる法的な問題を取り上げたものだ。これは、いわゆる尊厳死をテーマにしたもので、患者からの願いに応えて尊厳死をさせてやった女性医師が、殺人罪に問われる過程を描いている。この映画は、21世紀に入って作られたものだが、その時期になっても、日本では尊厳死がタブー視されていたということを、強く感じさせる作品である。近年、人工透析医療の現場で、患者の苦痛を避けるという名目で、自殺ほう助が当たり前に行われるようになったことが、世間の話題になったところだが、今の日本は患者が自分の意思に基づいて死ぬことが当たり前になってきつつあり、そこに小生などは時代の急激な変化を感じたりする。

こんな具合に、周防正行といえばシリアスな印象が強いが、映画監督としての出発はポルノ映画だった。また、「マルサの女をマルサする」といったパロディものも作っており、エンタメ映画の作家としての素質をもっていた。そうした素質が花開いたのが、「シコふんじゃった」とか「Shall we ダンス?」といった作品だ。「シコふんじゃった」のほうは、学生相撲の世界をユーモラスに描いたものであり、「Shall we ダンス!」のほうは社交ダンスの世界を、これもユーモラスに描いたものだ。どちらもほのぼのとした笑いをもたらしてくれる。ここではそんな周防正行の映画作品を鑑賞し、適宜批評を加えたい。



シコふんじゃった:周防正行
Shall we ダンス?:周防正行
それでもボクはやってない:周防正行
終の信託:周防正行



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