壺齋散人の 映画探検
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Shall we ダンス?:周防正行



周防正行の映画「Shall we ダンス?」は、前作の「シコふんじゃった」との間で色々な共通点がある。まず、相撲と社交ダンスという違いはあるが両者とも競技をテーマにしていること。しかもその競技を通じて登場人物たちが友情で結ばれていくと共に人間的にも成長していく過程を描いていること。また、両者とも競技についての観客の認識を改める効果を発揮していること。そのため「シコふんじゃった」は相撲人気を高める効果をもたらしたし、「Shall we ダンス?」はそうした効果を超えてダンスブームのようなものまでもたらした。かく言う筆者も、この映画に触発されて社交ダンスを始めようと思った一人だ。

一方違いもある。「シコふんじゃった」はスポーツ根性ものと言ってもよく、スポーツを通じて日本人の根性を描いたという特徴があるが、「Shall we ダンス?」が描いているのは根性ではなく中年男の浮気である。というか浮気と言う形で現れる中年の危機、当時は「中年クライシス」という言葉が流行っていたが、そうした精神的なクライシスを描いたという特徴がある。

精神的なクライシスといえばとかく深刻になりがちだが、この映画の場合には危機を笑いで包み込んでいる。主人公自体におっちょこちょいなところがあって、ただでさえ人の笑いを誘うのに、彼をとりまく様々な登場人物たちが、それぞれユニークなキャラクターを通じて人々を笑いの渦に巻き込んでいく。その点この映画は喜劇としても一流と言える。

この映画は役所広司を一躍大スターにした映画である。役所広司には女心をそそるようなシャイなところがあるが、その部分がこの映画では最大限に発揮されていて、それが女性客のハートを掴んで彼を大スターにしたのだと思う。彼が演じると中年男の浮気も嫌味にならなくなる、却ってその浮気には精神的なクライシスという背景があるということを納得させる。

脇役を演じた竹中直人と渡辺エリの演技もうまい。特に竹中は前作の「シコふんじゃった」以上にブレークしている。渡辺エリも圧倒的な存在感だ。

この映画はある一人の女性に主人公が恋心を抱くことから始まるのだが、話が進むうちに、彼の愛の対象がその女性なのか、それとも彼女の生きがいである社交ダンスなのか、どうもよくわからないような具合になる。彼がダンスを始めたのはその女性に接近する口実を得るためなのだが、ダンスをやっているうちに、ダンス自体が楽しくなる。ダンスにはそのような魅力があるのですよ、というメッセージが映画から伝わってくる。だからこそこの映画は、喜劇映画として成功したばかりでなく、社交ダンスのブームを惹き起こしたのだと思う。

とにかく見ていて楽しい映画だ。その楽しさは国際的にも通じたようで、アメリカでも大ヒットした。もっともアメリカ上映版は二時間以内にカットされたのではあったが。本作のオリジナル版は130分を超える長さなのだ。その長さが全く気にならないほど、この映画は楽しい。





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