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武正晴「百円の恋」:ボクシングにうちこむ女性



題名の「百円の恋」からは、百円くらいにしか値しない恋といったイメージが浮かんでくるが、この映画のなかで描かれている恋は、別に金がどうのこうのというものではない。安藤さくら演じる女主人公が、ひょんなことから百円ショップに努めることになり、そこを舞台にして彼女の恋が展開する、ということらしいのだ。

実際この映画の魅力は、安藤さくらという稀有な女優の魅力にかかっているので、それ以上で以下でもない。その安藤さくらは、映画の冒頭ではぶくぶくに肥ったデブとして出て来るが、そのうちボクシングに打ち込むようになってからは、みるみるうちに痩せて、スマートな体形になるのである。それは彼女の恋がそうさせたというふうに伝わって来るので、別に百円の効用ではないのだ。

彼女がボクシングを始めた動機は、ひそかに慕っていた男がボクサーだったからだろう。それともうひとつ、百円ショップの同僚で、中年の冴えない男からホテルに連れ込まれて強姦されたこともある。彼女はみすみす強姦された自分が不甲斐なく思って、護身用にボクシングを始めたとも読める。

ともかくこの映画は、ボクシングに打ち込む彼女の意地を描いている。しかし、ボクシングを始めた時にはすでに三十二歳にもなっており、あまり筋もよくないところから、華々しい戦績をあげることは出来ない。初めての公式試合では、いいところなくノックアウトされてしまうのだ。そんな彼女を、ボクサーだった男が慰めてくれる。慰められた彼女は、打たれて腫れあがった顔をくしゃくしゃにして、うれし泣きするのである。

そんなわけで、ほろ苦い恋愛映画という体裁をとっているが、こういう恋愛は珍しいのではないか。だらしがなくて、ぶくぶく肥った女が、ボクサーと仲良くなるというのが面白いし、そのボクサーから半端あつかいされても、慕い続けるところが可憐だ。あげくは男の気持がわかりたいと思ってか、自分からボクシングを学ぼうとする。ボクシングを通じて、互いに理解しあいたいと思ったのか。しかし、この女性は、あまり頭もよくないらしいので、自分の将来をうまく設計できるとも思えない。ボクシングをやっているからと言って、なにか希望が持てるかといえば、そうでもないのである。

それでも、この映画が見るに耐えるのは、先ほどもいったように、安藤さくらという女優の魅力による。



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