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ゆずり葉の頃:思い出探しの旅



2015年の日本映画「ゆずり葉の頃」は、岡本喜八の妻が旧姓中みねこの名義で発表した作品。これが唯一手がけた映画で、主演の八千草薫が企画の段階から協力したという。死期をさとった老女が、少女時代の思い出を探して歩き回るという趣向で、見るものをしてほんのりとした気分にさせてくれる。

いわば「思い出探しの旅」を描いたといえるが、同じようなことは、小生も含めて、死期が見えてきた老人にはよく起こるのではないか。小生も最近は、どういうわけもなく、少年時代のことを思い出して、微笑んだり、場合によっては涙ぐんだりすることもある。だからこの映画の中の八千草薫演じる老女の気持ちが、自分のことのようにわかるような気がする。

その八千草が求めている思い出草とは、疎開先の軽井沢で触れ合った寺の子どもなのだった。その子は成長して有名な画家となった。その画家の個展が軽井沢で開かれていることを知った老女は軽井沢まで出かけていく。相手に逢うためではない。その人が描いた絵を見たいためだ。その一枚には自分自身がモデルになっている。少女としての自分が、幼い子をおんぶして子守しているところを描いたものだ。

だが、ほんの偶然からその老人と出会うことが出来る。仲代達也演じるその老人は、緑内障のため目が見えなくなっているが、彼女と話し合っているうちに、昔を思い出したのであろう。目は見えないが、手はいまだにものを把握する力を持っているので、是非あなたの顔を手で触らせて欲しい、そう言って老画家は彼女の顔を触るのである。

こんな具合に、少年少女の時代に触れ合い、ほのぼのとした記憶を持った相手と、年老いて出会うということは、素敵なことだ。小生の場合も、先日高校時代の同級生の女性から、突然挨拶をされたのだったが、なにしろ、突然のことだったので、それ以上付き合いを深めることはなかった。折角の機会を生かせなかったことを、いまでは多少悔やんでいる。

タイトルのゆずり葉というものを、小生は見たことがない。映画の中では、青々としたままで落葉すると言っていたが、それが何時の時期なのかは言わなかった。老人たちが話題に取り上げるほどだから、人間で言えば晩年、自然で言えば晩秋から冬にかけてのことなのだろうか。




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