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沖田修一「おらおらでひとりいぐも」:若竹千佐子の小説を映画化



沖田修一の2020年の映画「おらおらでひとりいぐも」は、若竹千佐子の同名の小説を映画化したもの。かなりな脚色を施している。原作は、老女がただひたすらに亡夫を追憶するというもので、全くと言ってよいほど劇的な要素はなく、そのままでは映画にならない。だから脚色を施すのは無理もない。だがあまり不自然さは感じさせず、原作の雰囲気を大きく損なっているわけではない。原作の読ませどころは、東北弁でまくしたてる老女の独白にあるのだが、映画ではその老女を田中裕子が演じていて、なかなかの見せ所を作っている。

田中が老女を演じるだけでなく、その老女の若いころを蒼井優が演じている。そのおかげで映画の展開に厚みが出ている。また、三人の中年男たちを、老女の幻影といった形で登場させているが、これはマクベスの魔女達を中年男に託したものだろう。

前半は、原作とはほとんどつながりのない場面が展開される。後半に、亡夫の墓参りシーンが出てくるが、それでは終わらせず、老女がたくましく生き延びるさまを描いている。そうした老女のたくましさが、この映画の見どころといってよい。観客特に年寄りは、田中演じる老女の生き方に強い共感を覚えるだろう。

老女が幻影に向かって「おめらはだれだ」と問い、「おらだばおめだ」、と答えられるシーンが印象的だ。だが、幻影が現れるからと言って、老女は頭が変になっているわけではない。この老女は、クルマをレンタルして乗り回してもいるのである。



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