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安藤桃子「0.5ミリ」:老人たらしの女



安藤桃子の2014年の映画「0.5ミリ」は、安藤自身の小説を映画化した作品。原作は老人介護をテーマにしているそうだが、映画は、介護もさることながら、老人を巧みにあやつって快適なホームレス生活を送る一人の女の生き方をテーマにしている。老人たらしの女を演じた安藤さくらは、桃子の実の妹だそうで、この映画はそのさくらの圧倒的な存在感の上に成り立っている。なにしろ、三時間を優に超える大作であるにかかわらず、時間の長さを感じさせない。ストーリーが単純なわりには、充実感がある。傑作といってよいのではないか。

安藤さくら演じるホームヘルパーの女と、三組の老人世帯との触れ合いを描く。一組目のケースでは、介護相手の老人とのトラブルで出張先の家が全焼し、あまつさえ仕事を依頼された主婦が自殺したために、介護会社をクビになり、さくら演じるサワはホームレスの状態に陥る。二組目では、自転車泥棒を繰り返していた老人と同棲するうちに、妙に意気投合したうえ、老人は一人暮らしをあきらめて施設に入り、サワには愛車を形見に残す。三組目では、津川雅彦演じる老人との奇妙な共同生活を描く。結局、老人の姪と称する女があらわれて、さくらは家を追い出されてしまう。最後は、一組目の家族から一人生き残った息子との再会がきっかけで、その息子が父親と一緒に暮らしている家に居候することになるが、その男が粗暴で、息子の危険を感じたさくらが、どういうわけか息子に女装をさせたうえで、一緒に車に乗って放浪の旅に出るところで、映画はおわる。

同じような話が堂々巡りしているようで、発展性が感じられないのだが、そこがまた、現代の日本社会の閉塞感を物語っているようで、自然と感情移入できるようになっている。だいたい、ホームレスの境遇の女を登場させて、その女にいろいろな冒険めいた体験をさせるところにこの映画の面目がある。なんのかのといって、この映画は今の日本社会が抱えている閉塞感を強烈に表現しているのである。

安藤さくらの独特な雰囲気のおかげで、相手をつとめた老人俳優たちが生き生きとして見える。この映画の中の安藤さくらは、介護ヘルパーというより、老人たらしのように見える。安藤自身、老人に愛されるタイプなのだろう。



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