壺齋散人の 映画探検
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にごりえ:今井正



今井正の1953年の映画「にごりえ」は、樋口一葉の短編小説(十三夜、おおつごもり、にごりえ)を原作にして、オムニバス仕立てにした作品である。三篇とも、因習にとらわれた世界で生きる女を描いたものだ。もともと女の視点に寄り添うような内容の小説だが、今井はそれらを映画化するにあたって、共産主義者らしく、鋭い批判意識を盛り込んだ。きわめてメッセージ性の高い映画といえる。

「十三夜」は夫の仕打ちに耐えかねて実家に助けを求めた女が、父親に追い返されるという内容。それに昔の思い人がからみ、自分の意思で結婚できない身の不幸が強調される。「おおつごもり」は、商家に奉公する女の不幸な境遇が描かれる。恩人から金の工面を頼まれた女が、思い余って主人の金を着服したところ、それを見ていた主人の倅に助けられるといった内容である。タイトルになった「にごりえ」は、浅草の酌婦たちの生態を描いたもの。淡島千景演じる阿力を中心にして、酌婦たちの不幸な境遇が情緒たっぷりに描かれる。

「十三夜」が約20分、「おおつごもり」が約40分、「にごりえ」が約60分という構成で、ボリューム的には「にごりえ」が中心になっているが、内容からすれば、「おおつごもり」がもっとも迫力に富んでいる。主人公のミネを演じた久我美子がすばらしい。彼女の演技としては最高の出来ではないか。彼女が、自分の行為の後始末におびえる表情をアップで映し出したシーンなどは、おそらく日本映画の歴史にきざまれるべき名演技だと思う。

「にごりえ」も悪くはないが、やや冗長の感を受ける。酌婦と言えば春をひさぐイメージが伴うはずだが、この映画には性的な雰囲気がほとんどない。そこが不徹底に見えて、迫力をそいでいるのだと思う。もっとも淡島千景はかなり魅力を振りまいている。「夫婦善哉」と並ぶ彼女の代表作と言ってよいのではないか。




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