壺齋散人の 映画探検
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今井正の映画「あれが港の灯だ」 在日コリアンへの差別



今井正の1961年の映画「あれが港の灯だ」は、在日コリアンへの差別をテーマにした作品。それに1950年代から60年代半ばまで日韓間の対立を激化させた李承晩ライン問題をからませている。李承晩ラインとは、韓国大統領李承晩が一方的に設定した漁業圏域のことであり、その圏域内での日本漁民の操業は排除された。そのため、多くの日本漁船が韓国によって拿捕される事態が生じた。そこで、日本国内に韓国への敵対意識が強まり、そのことで在日コリアンへの差別が深刻化したという事情があった。この映画は、そうした事情を踏まえ、日本の漁船乗組員として暮らしている在日コリアン青年の苦悩を描いたものである。

江原真二郎演じる青年は、九州の漁業者に雇われ底引き網漁に出ていたが、たびたび韓国側の攻撃にさらされて漁がなりたたない。かといって日本側の海域では、魚があがらない。そこで船長は、危険をおかしてラインの向こう側での漁に踏み切るが、案の定韓国側に攻撃され、乗組員は命からがら逃げてくる。そのさいに江原は、韓国側に拉致されて、戻っては来れない。戻ってきても彼には居場所はないのだ。出漁間際に同僚の船員に韓国人であることをカミングアウトしていたかれは、すでに船中でひどい差別にさらされていた。だから、韓国側から命の危険を脅かされたあとでは、韓国人としての彼への差別は、憎しみにまで高まっているだろうからだ。

というわけで、この映画は、日韓間の外交関係の迷走が、国民レベルでの対韓感情の悪化をもたらしていることを、皮肉たっぷりに描いているわけだ。在日差別はそれ以前にもあったが、李承晩ライン問題がそれに火をつけた形である。この問題が最終的な解決を見るのは、日韓基本条約が締結され、それにともない日韓漁業協定が成立する1965年のことであり、この映画が作られた1961年においては、まだ現実の問題として日本側の漁民を苦しめていた。映画は、在日コリアンへの差別を描くとともに、韓国側によって不当に拿捕される日本人漁師の怒りにも光をあてている。

そういう点では、日韓関係をじっくり考えさせる内容になっているといえよう。いずれにしても、政治的なメッセージ性の強い映画である。


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