壺齋散人の 映画探検
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川島雄三の映画「わが町」:大阪を舞台の人情劇



川島雄三の1956年の映画「わが町」は、大阪を舞台にした川島得意の人情劇である。フィリピンから数年ぶりに戻ってきた男が、クルマ引きをやりながら、娘とその娘の残した孫の養育に一生をささげる。そのけなげな男の意地を、さびれた長屋の仲間たちが支える、といった内容の映画である。

辰巳柳太郎演じるクルマ引き他吉は、無学文盲だが、フィリピンで道路建設に携わり、日本の威信をかけてその事業の成功に貢献できたことを唯一の誇りにしている。その他吉が、長屋の連中からターヤンと呼ばれながら、懸命に生きる。ところが、日本にかえって間もなく,女房が死んで一人娘を男手ひとつで育てるはめになる。娘は順調に育って、長屋仲間の男と結婚するが、その男が、ターヤンに急き立てられてフィリピンにわたり、かの地で死んでしまう。夫が死んだのは父親のせいだと娘に責められ、あげくその娘も産褥で死んで、ターヤンは今度は孫娘を引き受けるはめになる。ターヤンは、老体に鞭打って人力車を引き続け、孫娘を立派に育て上げるのだ。

ターヤンの妻を演じた南田洋子が、孫娘も演じることになり、その孫娘の恋人を、当時川島映画の常連だった三橋達也が演じている。この映画の中の三橋は、癖のない演技をしている。

どうということもない人情劇だが、辰巳竜太郎の演技のおかげで、テンポよく進んでいく。原作を書いた織田作之助は、川島の親友だったそうで、川島は織田の人情噺をほかにも映画化している(還ってきた男)。


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