壺齋散人の 映画探検 |
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増村保造は溝口健二の助監督として出発したにもかかわらず、溝口を強く批判して、その作風を嫌悪した。理由はいまひとつすっきりしないが、溝口が因習的な人間像を感傷的に描いたということらしい。だがその増村自身も、好んで日本の因習的な世界を描いた。もっともその描き方には、溝口とは違ったところがあった。溝口が女や弱い者の視点から描き続けたのに対して、増村は男の視点から描いた。また溝口には社会に対する批判的な意識があったが、増村にはそういう要素はあまり見られない。彼にとって映画とは、理屈を盛りこむ容器ではなく、人を楽しませるものだった。 |
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そんな増村の娯楽主義を象徴する作品として「兵隊やくざ」がある。これは軍隊生活をシニカルに描いた作品で、戦争を娯楽の延長として見るものだ。勝慎太郎という稀有な俳優を活用したこともあり、この映画には独特のメリハリがあって、当時の日本人には評判が良かった。この映画に限らず、増村の映画には娯楽的な要素が強く感じられるのである。 とはいえ増村保造の映画には、それなりに人を考えさせるようなものもある。特に若尾文子を起用した映画には、若尾の魅力を最大限引き出しながら、日本社会を痛烈に皮肉るような内容のものがある。増村は若尾が気に入っていたらしく、二作目の「青空娘」に主演させて以後、実に20本の映画で付き合っている。非常に多産であった増村の傑作といわれる作品のほとんどは、若尾を主役に据えているのである。 若尾文子を主演に使った映画には、「妻は告白する」以下シリアスな内容の作品が多い。一方、「好色一代男」のような、エロチックで退嬰的な作品もつくっている。若尾を多用した監督として川島雄三がいるが、川島も若尾の色気と退嬰的な魅力を十分に引き出していたものだ。 若尾は基本的には、知的な感じの女性なので、徹底的にハメを外すような演技は期待できない。そこでそういった映画、たとえば「知人の愛」のような作品には、それにふさわしい女優(安田道代)を使ったり、また、「曽根崎心中」のような映画では、切羽詰まった女心を演じることのできる女優(梶芽衣子)を使っている。特に「曽根崎心中」における女郎の描き方は、近松の原作を十分に踏まえながら、日本の女の一つの典型を描きつくしたといってよい。「曽根崎心中」は増村保蔵の代表作というのみならず、日本映画の金字塔の一つといってよいのではないか。 ここではそんな増村保造の主要作品を取り上げて、解説・批評を加えたい。 増村保蔵「好色一代男」:西鶴の小説を映画化 妻は告白する:増村保蔵のサスペンス映画 増村保蔵「卍」:谷崎潤一郎の小説を映画化 増村保蔵「兵隊やくざ」:軍隊生活を笑いのめす 増村保蔵「清作の妻」:不幸な女の愛を描く 増村保蔵「刺青」:谷崎潤一郎の小説を映画化 赤い天使:増村保蔵の戦争映画 増村保蔵「痴人の愛」:谷崎潤一郎の小説を映画化 増村保蔵「華岡青洲の妻」:有吉佐和子の小説を映画化 増村保蔵「曽根崎心中」:近松門左衛門の浄瑠璃を映画化 |
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