スローなブギにしてくれ：藤田敏八

藤田敏八は日活ロマンポルノの旗手として知られ、若い頃の桃井かおりに濡れ場を演じさせたりしていたが、商業映画も手掛けた。1981年の作品「スローなブギにしてくれ」は、かれの商業映画の代表作だ。もっとも制作費をわずかに回収できたくらいで、ヒットはしなかった。一方、同名の主題歌は大ヒットして、いまでも日本の歌謡曲のスタンダードナンバーになっている。

若い女の男性遍歴を描いた作品だ。実家が崩壊していて、戻る場所のない娘さち乃（浅野温子）が、二人の男と同時につきあう。そのひとり山崎務には、ヒッチハイクのようにして拾われる。ところがどういうわけか、山崎の機嫌を損ねて車から放り出されてしまう。そこを通りがかった青年五郎（古尾谷正人）に介抱され、とりあえず彼の下宿で世話になることになる。ところが、さち乃を忘れられない山崎がモーションをかけて来て、さち乃は山崎ともセックスするようになる。つまり三角関係が生じるわけだ。

山崎のほうは他にも複雑な人間関係を抱えている。本妻とは別居状態で、米軍基地近くで暮らしているが、それは一人の女をめぐっての二人の男の協同生活なのだった。二人はその女を共有していて、女が生んだ子も共有している。どちらのタネだか明らかでないので、とりあえず二人で共同責任をとっているというわけだ。山崎のこうした人間関係は次第に破綻していく。本妻とは正式に離婚が成立し、娘の親権も取り上げられる。一方、ほかの連中との共同生活は、原田芳雄演じるパートナーが心臓発作で死んだことがきっかけで破綻する。それについては、山崎につきまとうさち乃の影が働いた。

一方、五郎の方は奔放な暮らしぶりで、ほかの女を下宿に引っ張りこんだりする。げんなりしたさち乃は五郎の下宿を出るが、その際にならず者たちによって強姦されてしまう。その事実を知った五郎は、ならず者たちを探し出して仕返しをするのだが、それは五朗のさち乃への愛の現われなのだった。

五郎と暮らすようになったさち乃は、腹がふくれてくるが、どういうわけか、山崎との心中を選ぶ。五郎と山崎と、どちらの子か明らかでなかったという事情も働いたのであろうと観客に思わせながら映画は終るのだ。もっとも山崎のほうは生き延びて、さち乃だけがムスタングの中でお陀仏になるのである。

こんな具合で、よくあるラブストーリーである。その割にはよくできていて、観客を飽きさせないのは、ポルノ映画でつちかった感性表現の賜物であろう。なお、浅野温子はこの映画を通じて、日本人女性の新しいタイプの出現を大いに感じさせたものだ。彼女は決して美人ではないが、独特の魅力を感じさせる。

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