壺齋散人の 映画探検 |
HOME|ブログ本館|美術批評|東京を描く|水彩画 |動物写真|西洋哲学 |プロフィール|掲示板 |
河瀬直美の2017年の映画「光」は、河瀬にはめずらしく男女のラブロマンスがテーマである。その男女というのが、若い女と、彼女にとっては父親ほど年の離れた中年男の組み合わせなのである。こんなに年の離れた間柄でも、恋愛は成立するのか。もっともこの映画の中での男女の恋愛は、性愛と言うよりは、精神的なつながりということになっている。男女の精神的なつながりを恋愛と呼べるのかどうか、議論があるところだが、この映画の中の男女は、互いを深く愛しているように映る。 若い女(水崎綾女)は視覚障害者向けに、映画の音声ガイドを作る仕事をしている。製作スタッフは、実際の視覚障害者をモニターとして、作品の出来ばえをチェックしているのだが、そのモニターのひとりに永瀬正敏演じる弱視のカメラマンがいた。映画は、この二人が次第に愛し合うプロセスを描くわけだ。 二人とも自分なりの問題をひきずっている。女のほうは、田舎に一人で置いている母親のことが気になっている。母親は認知症になっていて、自立できないため、近所の人に世話をお願いしている。そんな母親だが、娘に会うことを唯一の楽しみにしているので、娘としてはなんとか都合をつけて、母親に会いに行くよう心掛けている。 一方男のほうは、高名なカメラマンだったものが、弱視になって思うように仕事が出来なくなってしまった。それでかなり落ち込み、他人に対して攻撃的になる傾向がある。その攻撃が女にも向けられる。攻撃された女は、最初は男を憎むが、男の中の影を嗅ぎつけて興味を覚える。その興味が次第に恋愛感情に発展していくわけだ。 二人の結びつきは、女の方からのイニシャティヴで固まったということになっている。それも年下の女からだ。男は自分自身のハンデを意識して、自分から積極的に出ることがないのだ。しかも女よりずっと年上だ。そんなギャップを乗り越えてまで女がこの男に恋愛感情を抱いたのはどういうわけか。そのわけを、もつれた糸を解きほぐすように丁寧に解明するというのが、この映画の成り立ちというわけである。 例によって奈良の美しい自然が出て来る。主要な舞台は大都市らしいが、時折奈良の自然が出て来て、観客にほっとした思いをさせる。河瀬はよほど奈良の自然が好きらしい。 |
HOME |日本映画 | 河瀬直美 | 次へ |
作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2018 このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである |