壺齋散人の 映画探検
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是枝裕和の映画:作品の鑑賞と解説


是枝裕和は、21世紀の日本映画を代表する監督である。処女作の「幻の光」と第二作の「ワンダフル・ライフ」は20世紀のうちに作られたが、彼の名を一躍高めたのは21世紀になってまもなく作った「誰も知らない」である。これは子捨てをテーマにしたもので、日本社会の闇を描いたものだ。是枝裕和がこの映画を作った頃は、児童虐待が大きな社会問題となっており、日本中が児童虐待に敏感になっていたものだが、この映画はそうした日本人の問題意識に訴えるところもあって、是枝はこの一作で、意欲ある社会派監督として、一躍日本映画をリードする存在になったのである。

是枝裕和の社会的な問題意識は、その後も旺盛で、「空気人形」では、日本社会における女性の生きづらさを、「三度目の殺人」では、日本の刑事司法システムの問題点を抉り出すような映画の作り方をしていた。最新作の「万引き家族」は、日本社会の問題点を総括的に描き出したとして、国際的な評価を集めたものだが、それは日本社会自体としては、不名誉なことだったともいえる。だが、それは是枝裕和個人の責任ではない。是枝は単に日本社会の矛盾に向き合っただけで、根本的な問題は日本社会自体のなかにあるわけである。

是枝はまた、日本社会の飾らない姿を淡々と描きだすことでも定評がある。「海街ダイアリー」とか「海よりもまだ深く」はそうした傾向の映画の代表作で、前作では、鎌倉の片隅でけなげに生きる四人姉妹を、後作では、離婚して解体した家族のあらたなつながりの可能性のようなものを描いていた。どちらもドラマ性は殆どないと言ってよく、同時代の日本社会を生きる人々の日々の暮らしが淡々と描かれているのである。

是枝の処女作「幻の光」は、ある女性の、自分の理解できない理由で死んだ夫への感情のこだわりを描いたものだったが、それとならんで家族のあり方についても目配りしていた。そうした家族への目配りといったものは、「海街」とか「海よりも」にもあらわれていたわけだが、それを表面から取り上げたものとして「そして父になる」があげられよう。これは、血のつながっていない父子が、本物の父子になるプロセスを描いたもので、家族とはなにかという大きな問題を考えさせるようになっている。

こんなわけで是枝裕和の映画には、家族への強いこだわりがうかがえる。日本の映画の伝統のなかでは、家族は結構大きなテーマとなっていたわけだが、家族のことばかりを描いた作家はそう多くはない。小津安二郎はその数少ない映画作家の一人だが、是枝裕和も小津に並ぶくらいに、家族にこだわり続けていると言えよう。

ここではそんな是枝裕和の、代表的な映画を鑑賞しながら、適宜簡単な解説を加えていきたい。


是枝裕和「幻の光」:女の生き方

是枝裕和「ワンダフルライフ」:あの世への旅の通過儀礼


是枝裕和「誰も知らない」:置き去りされた子どもたち

是枝裕和「花よりもなほ」:元禄時代の町人たちの生き方

是枝裕和「歩いても歩いても」:緩やかな家族関係

是枝裕和「空気人形」:人間の心をもつダッチワイフ

是枝裕和「そして父になる」:子どもの交換

是枝裕和「海街diary」:四人の姉妹たちの共同生活

是枝裕和「海よりもまだ深く」:離婚した夫婦

是枝裕和「三度目の殺人」:日本の司法制度を批判

是枝裕和「万引き家族」:格差社会日本の負け組を描く

真実:是枝裕和の日仏共同映画


是枝裕和「ベイビー・ブローカー」:児童の人身売買と赤ちゃんポスト



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