壺齋散人の 映画探検
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後妻業の女:鶴橋康夫



鶴橋康夫の2016年の映画「後妻業の女」は、金を持っている老人の後妻に納まって、老人が死んだ後その財産を独り占めにしようと企む女を描いている。後妻業という言葉があるのかどうかわからぬが、こういう人間が映画の主人公に選ばれるということは、いわゆる高齢化社会の姿を反映していると言えよう。後妻に納まった相手を次々に殺して遺産をせしめた女の事件もあったから、そのほうも日本の高齢化の一断面だったといえなくもない。

大竹しのぶ演じる女が、老人相手の結婚相談所の所長(豊川悦司)とぐるになって、金をもっていそうな老人の後妻に納まり、その老人を殺して遺産を山分けしようというのが映画の筋書きだ。この女は、それまでに何度も結婚しては男と死に別れてきたのだったが、そのうちの二三は自分で殺したようなのだ。今回も、津川雅彦演じる老人を体よく殺したまでは良かったが、その老人の娘が父の死を不審に思い、探偵を雇って調査を始める。

ところがこの探偵が曲者で、当初は娘の調査に協力するふりをしながら、相手の犯罪の決定的証拠を握ると、自分で相手をゆすりにかかる。

というわけで、この映画の中に出て来る人間は悪党ばかりなのだが、その悪党があまりいやらしさを感じさせないように出来ている。大竹も豊川もどこか抜けているところがあって、悪党としては中途半端なところがあるのがその理由かもしれない。悪党といえば、笑福亭鶴瓶演じる老人は、大竹を手玉にとって金を出させようとする。詐欺師を相手にたかろうというのだから、相当の悪党だ。こういう、女を手玉に金をたかる奴を、映画の中では棹師と呼んでいた。棹とは男の一物のことである。その一物で女をたぶらかそうというわけである。

大竹と豊川は、「一枚のはがき」でも共演して、二人で田畑を耕そうと、水をたたえた樽を肩で担ぎ歩くシーンが印象的だったが、この映画の中の二人は、随分と年をとったという感じを与える。前作からは五年しかたっていないにかかわらずである。わざとそういうふうに役作りをしているせいかもしれない。




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