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阪本順治の映画:作品の解説と批評


阪本順治は、難波のロッキーとして知られていた引退ボクサーの赤井英和と組んで「どついたるねん」を作ったのが監督としてのデビューだった。これは自主製作というべきもので、どの映画館も上映してくれなかったため、原宿にテントを張って上映したという。ところが映画の評判が口コミで広がって、多くの客をあつめ、それがまた噂を呼んで一般の映画館も上映するようになったという代物だった。この映画が成功したことで、阪本は本格的な映画監督としての道を歩むようになった。

「どついたるねん」は、スポーツど根性ものだが、それに続く「KT」と「闇の子供たち」は社会的な視線を感じさせるものだった。「KT」は1973年に東京で起きた金大中拉致事件をテーマにしたものだ。この事件には、本人の金大中が沈黙を続けたこともあって、わからないことが多いのだが、阪本はそれに乗じるわけでもなかろうが、日本の自衛隊の幹部が深くかかわっていたというふうに描いた。大した根拠があるわけでもないらしいが、日本の自衛隊はじめ、権力の中枢からはとくに反発はなかったようだ。坂本はこれを全くのフィクションだと映画の中で断っているので、へたに反発して大人げないと受け取られたくないと思ったのかもしれない。

「闇の子供たち」は、タイにおける児童買春や子供の臓器移植をテーマにしたもの。移植と言っても、普通の内臓とは違って心臓の移植である。移植を目的に子供から心臓を取り出したら死んでしまうわけで、あきらかに殺人行為である。その殺人がタイでは合法的に行われているというふうに描いたこの映画は、当然のことながらタイ政府から猛烈な抗議をうけ、日タイ共同制作のうたい文句にかかわらず、タイでの上映を禁止された。

阪本は以後、政治的テーマにはのめりこまないと観念したか、娯楽映画を作るようになる。「大鹿村騒動記」や「北のカナリアたち」は、そうした娯楽映画の傑作である。「大鹿村騒動記」は信州の平家部落を舞台に、歌舞伎に情熱をかける人たちを描いたが、これは一代の名優原田芳雄の遺作となった。その原田の相手を、大楠道代がつとめたのだったが、それは原田にとっては役者冥利だったに違いない。

「北のカナリア」は七十歳を過ぎた吉永小百合をフィーチャーして、彼女の魅力を十分に引きだした作品だ、原田と言い、吉永と言い、役者の持っている魅力を十分に引き出すところに、阪本順治のこだわりを感じることができるのではないか。ここではそんな阪本順治の代表的な作品を取りあげ、鑑賞の上、解説・批評を加えたい。


阪本順治「どついたるねん」:難波のロッキー

阪本順治「KT」:金大中拉致事件

阪本順治「魂萌え」:桐野夏生の小説を映画化

阪本順治「闇の子供たち」:タイの人身売買

阪本順治「大鹿村騒動記」:落人村の村歌舞伎

阪本順治「北のカナリアたち」:離島の女教師と教え子たち



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