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阪本順治「闇の子供たち」:タイの人身売買をあばく



阪本順治の2008年の映画「闇の子供たち」は、タイにおける児童の人身売買や性的虐待・搾取をテーマにしたものだ。一応、日・タイ共同制作ということになっており、タイ国際映画祭にも出品予定だったが、内容がタイ当局の反発を買い、タイでの上映はいまだに実現していない。この映画の中では、児童買春と並んで、生きた子供を対象にした心臓移植もテーマになっており、そこがタイ側の反発に火を注いだらしい。生きた子供から心臓を取り出したら死んでしまうわけで、それを承知で臓器を取り出すのは、あきらかに犯罪行為(殺人罪)だ。タイでは、そんな犯罪行為は許されていないし、また実際に日本人の子どもにそのような移植が行われたという事実もない、といってタイ側は、強く反発したようだ。たしかにそういうことはなかったようで、その点は勇み足と言うほかはないが、児童買春は実際にあったことだ。タイでの児童買春は一時国際的に問題となり、Newsweekなどが批判キャンペーンを張ったこともある。

この映画は、日本メディアの現地派遣記者が、本社の支持を仰ぎながら、児童買春の実態や児童を対象にした臓器移植の取材をしているという形をとっている。その取材の過程で、児童買春の巣窟のようなところがあぶりだされる。そこには、農村から親に売られた子どもたちが集められ、牢獄のようなところに閉じ困められては、客に性的サービスを強要されている。まだ十歳にもならない少女や少年が、豚のように肥え太った醜悪な変態米人とか、不良日本人によって、性的に虐待される。少年は小さな肛門に巨大な男根をつっこまれ、肛門が破れて出血するありさまだ。また女の子には、エイズを発症して商品としては使い物にならなくなり、ごみ袋に入れて捨てられるものもいる。そうした少年少女の境遇に深い関心を寄せるNGOもあって、江口洋介演じる南部記者は、そのNGOと協力して、児童買春や臓器移植の実態を究明しようとする。その南部に、宮崎あおい演じる恵子という女性ボランティアがからまり、児童の救出に向けた活動を続けるといった具合だ。

かれらの活動はなかなかうまく進まない。警察が信用できないので、自分たちの力だけで活動しなければならないが、相手は暗黒街のやくざ組織。逆に返り討ちに会って殺されてしまうリスクを冒さねばならない。実際南部も殺されかかったのであるが、めげることなく探索を続けるのである。

そのうち、ある病院で生きた子供から心臓を摘出して、それを日本の子どもに移植する手術が行われることを知った南部は、その現場を取り押さえることはできなくとも、その状況の一端なりとも証拠写真をとり、それをもとに問題意識を投げかける記事を書きたいと思う。一方、移植を受ける日本の子供の親に会って、取材への協力を申し出るが、恵子が不必要に親を刺激してしまい、協力を得られない。この場面では、自分の子供の命だけを考える親の身勝手さがクローズアップされるが、実際のところ、他の子供を殺して、その臓器を得ることを望む者は、日本の親と雖もいないのではないか、とこの映画を批判する人々は言っているようだ。

結局最後には、児童売春組織は警察によって摘発され、そこに拘束されていた子どもたちは解放される。要するに勧善懲悪で終わっているわけだが、それにもう一つおまけがついている。児童買春を追求していた南部は、かつて自分自身が児童買春の客として、男の子を相手に性的快楽に耽っていたというのである。それが突然出てくるために、この映画はいささか締まりのない構成になっていると指摘せざるを得ない。それはともあれ、タイではいまだに児童の人身売買や児童買春が横行しているのだろうか。



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