壺齋散人の 映画探検
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塚本晋也の映画:代表作の鑑賞と解説


塚本晋也はかなり変わった映画を作り続けた。実質的なデビュー作である「鉄男」は、くず鉄に変身した男の物語だった。これはカフカの「変身」を想起させたものだ。カフカの主人公は巨大なゴキブリに変身するのだが、塚本の映画の主人公は、全身がくず鉄に変身するのだ。無論ペニスも鉄になる。鉄になったペニスは電動ドリルのように回転して、恋人の身体を切り裂くのだ。塚本のこうしたアイデアは、世界中の物好きたちを刺激して、塚本は日本の映画人として、もっとも世界に知られるようになった。

こんな調子で塚本は変わった映画を作り続けた。「六月の蛇」は、変態ストーカーにつきまとわれて、人前に陰部をさらす女を描き、「ヴィタール」は、記憶を失い潜在意識で動いている男が医学性としてかつての恋人の死体を解剖するところを描き、「悪夢探偵」は、人の夢の中に入る能力を持った男と人の心の中に入る能力を持った男が、第三の人物の中で対決するといった、それぞれ荒唐無稽な内容だった。

また、「KOTOKO」は、精神病質の女に翻弄される男を描いた作品だ。その描き方には、精神病への偏見を助長するようなところもあるが、映画としては、ヒッチコックの「サイコ」に負けないだけのインパクトをもった。

「野火」は、大岡昇平の有名な小説を映画化したものだ。すでに市川崑が映画化していたので、比較されたものだが、塚本のほうが原作の雰囲気をよく出していたといえるのではないか。それは、人肉食という陰惨なテーマについて、市川には腰の引けるところがあったのに対して、塚本にはそういうところはなく、遠慮せずに原作の雰囲気を再現したからだ。

「斬、」は、塚本としては初めての時代劇で、チャンバラ映画の特性を最大限生かしている。チャンバラ映画とは、刀で殺しあう場面を売り物にしているものだ。塚本もこの映画の中で、刀による切りあいを、心ゆくまで描き出した。人間の本質は、互いに殺しあう所にあるといわんばかりである。

以上の映画を通じて、塚本は自分自身重要な登場人物として出演している。塚本は、自分の映画ばかりか、スコセッシの「沈黙」のような映画にまで出演した。スコセッシは塚本のファンらしく、塚本へのエールの意味で出演させたようだ。

塚本晋也は、決して二枚目ではなく、また演技に迫力があるわけでもない。顔つきはどちらかといえば間抜け顔であるし、また演技のほうは素人芝居の域を出ていない。要するに三文役者なのだ。その三文役者が臆面もなく銀幕であばれまわるというのが、なんともいえずアクロバティックな異様さを感じさせる。そんな塚本の演技を見ると、観客はバカにされているように感じるところだ。

ともあれ、塚本晋也の映画はそれなりに面白い。ここではそんな塚本の代表的な作品を取りあげて、鑑賞の上、適宜解説・批評を加えたい。


塚本晋也「鉄男」:スクラップ鉄になった男

塚本晋也「鉄男Ⅱ BODY HAMMER」:「鉄男」の続編


塚本晋也「六月の蛇」:欲求不満の女と変態男


塚本晋也「ヴィタール」:記憶喪失者の人体解剖

塚本晋也「悪夢探偵」:人の夢の中に入る男

塚本晋也「KOTOKO」:精神病質の女の奇怪な行動

塚本晋也「野火」:大岡昇平の小説を映画化

塚本晋也「斬、」:意味のない人斬り



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