壺齋散人の 映画探検 |
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イングマール・ベルイマンは、20世紀を代表する映画監督の一人である。神に対する信仰の揺らぎや人間の弱さを見つめた精神性の強い映画を作り続け、20世紀の映画作家たちに大きな影響を及ぼした。とりわけ「第七の封印」や「野いちご」といった作品は、北欧ならではの感性が現われており、イングマール・ベルイマンの名声を確立するのに決定的な役割を果たした。また、神の不在三部作と言われる作品群を通じて、現代人の信仰の可能性について人々に深く考えさせた。 |
1946年に「危機」で監督デビューして以来、低予算映画を作っていたが、1953年の「不良少女モニカ」で国際的な注目を集めた。1955年の「夏の夜は三たび微笑む」は軽快なコメディタッチの作品で、ベルイマンの名声をいよいよ高めた。その名声を決定的にしたのは、1957年の「第七の封印」。これは聖書の中の「ヨハネの黙示録」をもとにしたもので、人類の滅亡を描いている。その滅亡のイメージは、当時の冷戦を反映しているのだろうと思われる。 同年の「野いちご」は、イングマール・ベルイマンの代表作というべきもの。老いと死をテーマにしたこの映画は、「第七の封印」とならんで、ベルイマンの宗教意識を反映しているのであろう。冒頭の場面で出て来る霊柩車のイメージは、夢の中のこととされてはいるが、人間の死をグロテスクな形で象徴していて、思わず見ている者の顔をそむけさせるところがある。 続いて、「鏡の中にあるごとく」(1961)、「冬の光」(1962)、「沈黙」(1963)は、神の沈黙三部作と称され、ベルイマンの宗教意識が更に深められた形で盛られている。このシリーズ以降ベルイマンは、愛人の女優リブ・ウルマンを起用して、人間の本質に迫る作風の映画を作った。「ペルソナ(1966)」や「叫びとささやき」(1972)はその代表的なものである。一方「恥」(1968)は、内戦が人々を破滅させる過程をえがいたもので、ベルイマンとしてはめずらしく、政治的な傾向を感じさせる作品だ。 1978年の作品「秋のソナタ」は、母娘間の葛藤をテーマにした作品で、母子の間にも超えることのできない溝があるというショッキングな事態を描いた。ベルイマンの映画には、信仰のゆらぎとかあるいは人間相互の不信といった、人間の弱さに焦点をあてた作品群があるのだが、「秋のソナタ」はそれをもっともデリケートに表現した作品である。なおこの映画にベルイマンは、スウェーデン出身の大女優で、自身の名の女性型ともいえるイングリッドバーグマンを起用した。 最後の監督作品「ファニーとアレクサンデル」(1982)は、五時間を超える長大作だが、観客をして屈託させない工夫に富んでいる。しかも、北欧の自然をバックにして、スウェーデン人のプロテスタント信仰への懐疑とか、中世的な魔術への偏愛とか、それまでのかれの映画にはあまり出ていなかった要素が前面に出ていて、実にスリリングである。ともあれ、この長大作を飽きさせずに見続けさせる技量は、さすが映画史に残る巨匠のわざというべきであろう。ここではそんなイングマール・ベルイマンの主要な作品をとりあげて、鑑賞のうえ適宜解説・批評を加えたい。 イングマール・ベルイマン「不良少女モニカ」:神を恐れぬ奔放な生き方 イングマール・ベルイマン「夏の夜は三たび微笑む」:恋愛ゲーム イングマール・ベルイマン「第七の封印」:ヨハネの黙示録 イングマール・ベルイマン「野いちご」:老いと死を描く イングマール・ベルイマン「魔術師」:権力に迫害される魔術一座 イングマール・ベルイマン「処女の泉」:娘のための復讐 イングマール・ベルイマン「冬の光」:神の沈黙三部作 イングマール・ベルイマン「沈黙」:神の沈黙三部作 イングマール・ベルイマン「仮面 / ペルソナ」:仮面の葛藤 イングマール・ベルイマン「恥」:内戦に翻弄される人々 イングマール・ベルイマン「叫びとささやき」:生きることの罪深さ イングマール・ベルイマン「秋のソナタ」:母娘間の葛藤を描く イングマール・ベルイマン「ファニーとアレクサンデル」:虐待される連れ子たち |
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