壺齋散人の映画探検
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フィンランド映画「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」:ソ芬戦争を描く



2017年のフィンランド映画「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」は、第二次世界大戦の一環として行われたフィンランドとソ連との戦争(通称ソ芬戦争」をテーマとした作品。この戦争は二つの段階からなる。一つは1939年11月にソ連軍のフィンランド侵略に始まったもので、冬戦争と呼ばれる。これは三か月後に停戦が成立し、フィンランドは独立を守ったが、カレリア地峡など領土の一部を失った。もう一つは、1941年6月から44年9月まで行われたもので、継続戦争と呼ばれる。この継続戦争をフィンランドは、ナチスドイツの同盟軍という形で戦った。ナチスがソ連に勝つことを予想して、そのナチスの力を利用して失われた領土を取り戻そうとしたわけである。しかしナチスドイツは敗北し、フィンランドもまた枢軸国側の敗戦国となった。そうした歴史の皮肉を、クールなタッチで描いた作品である。

フィンランド映画であるから、無論フィンランド人の視点から描かれている。しかしフィンランドに過剰な肩入れをしているわけではない。だからといって、ソ連側に配慮しているわけでもない。フィンランドは、領土の回復のために戦ったという大義はあるが、よりによってナチスの力を借りてそれを果たそうという間違いを犯した。また、フィンランドの攻撃は、失われた領土の回復という名目を超えて、ソ連領への侵略にまで至った。明らかにやりすぎである。しかも制圧した都市では、ソ連人女性をレープするような蛮行を犯している。それは言い訳できないことだ、といったような反省の念も感じさせるのである。

映画の主人公は、フィンランド軍の兵士全体である。その兵士の中には、ソ連に奪われた土地を取り戻したいというだけの者もいれば、勝ちに乗じてやりたい放題をする輩もいる。いずれにしても、国力からして、フィンランド単独ではとうていソ連にはかなわない。ドイツの強力な援助が必須である。そのドイツの旗色が悪くなったら、フィンランドがあっさり降伏するのは自然の勢いだ。人は精神力だけで戦いに勝つわけにはいかないのだ。そうした冷徹な視線が、この映画の中のフィンランド兵たちを、複雑な色合いに染めあげているのである。

この戦争を行った当時のフィランドの人口はわずか400万人足らずである。そこから50万人の兵士を動員したというから、戦える能力のある男はほとんど駆り立てられたということになる。映画には、未成年の兵士も多数登場するのだ。未成年の兵士は簡単に倒されてしまう。そこが見るもものに痛々しい感情を起させる。

この映画を見て感じるのは、フィンランドは二重の間違いを犯したということだ。一つはナチスドイツの威をかりて戦争に勝利しようとしたこと、もう一つは、自らの無能を顧みずにソ連という大国を侵略しようとしたことだ。その結果無残な敗北を味わった。ただフィンランドは、ナチスドイツが降伏する前に対ソ停戦に成功し、停戦の条件として対独参戦をしたことで、ソ連による過酷な支配に甘んぜずにすんだ。生き残った兵士たちはそれぞれ我が家に帰ることができたのである。



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