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ロイ・アンダーソン「さよなら、人類」:人類への批判



ロイ・アンダーソンの2014年の映画「さよなら、人類」は、見ていて捉えどころのない映画だ。筋書きのようなものはないに等しいし、いったい何が言いたいのか、よくわからない。映像とタイトルの組合せから伝わってくるのは、どうやら人類への批判らしいということだ。「さよなら、人類」という言葉は、あきれ果てた愚か者である人類とは、今後付き合いたくないというメッセージを込めているようである。

映画はまず、死との出会いと題して、人間の死をモチーフにした三つの画面から始まる。人間というものは、いつどこで死ぬかわからない。そのくせ、いざ死ぬというときにあたって、役立たずのガラクタを天国に持っていきたがる、というようなメッセージを発したあと、人間の愚かさを感じさせるようなシーンが次々と出てくる。シーン相互にはほとんど何のつながりもない。ただ、サムとヨナタンという中年男のコンビが出て来るのだが、かれらはロクでもないものを売り歩くセールスマンという触れ込みのほか、何の意味も感じさせないのである。

人類の愚かさを強く感じさせる場面としては、スウェーデン国王が無益な戦争をみずから仕掛けて敗北すること、類人猿と思われる生きものが人間を嘲笑するところ、ガス室を思わせるタンクに黒人たちを押し込め、火であぶって皆殺しにすること、金持ちたちが集まって給仕からワインを注いでもらうところなど、まったくナンセンスなものばかりである。そういうナンセンスを突き付けながら、人類などというものは、せいぜいこれくらいのことしかしない余計な生き物なのだというメッセ―ジが伝わってくるようになっているのである。

そんな映画を作ったロイ・アンダーソンは、英米系の名前を連想させるが、れっきとしたスウェーデン人で、当国では、ロイ・アンデルソンというそうである。思弁的な雰囲気の作品を得意としているらしい。



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