壺齋散人の 映画探検
HOMEブログ本館美術批評東京を描く水彩画動物写真西洋哲学 プロフィール掲示板

ヤン・スヴェラーク「ダーク・ブルー」:英軍傭兵のチェコ人



2001年のチェコ映画「ダーク・ブルー」は、ヤン・スヴェラークがイギリスを舞台にチェコ人の生き方を描いた作品。チェコ軍のパイロットだった男達が、ナチスドイツに占領されたチェコを脱出し、イギリス空軍の志願兵となって、ドイツ空軍と戦うさまを描いている。

イギリスにとっては、外国人を傭兵として使うということらしいが、実際にそんなことがあったのか。移民国家アメリカなら、移民を徴用することがあるのはわかるが、イギリスのような国民国家が、国をあげての戦争にさいして、外国人を積極的に利用した、それも空軍のパイロットという非常に微妙な部分に徴用したというのは、もし現実のことだったとしたら、まことに意外である。

この映画に出てくるチェコ人の志願兵たちは、故郷のチェコをナチスドイツから解放するために、ナチスの敵であるイギリスの空軍に進んで志願したということになっている。動機はわからないでもない。自分の国が外国に侵略されているわけだから、自分に可能な方法で国のために戦いたいという気持ちは不自然ではない。そういう気持ちを受け止めて、自分の利益のために使うイギリスのやり方は巧妙だというほかはない。イギリスはポーランドの反ナチ政権を亡命政権として受け入れたりして、半ナチ勢力をうまく使っていた。チェコ人を傭兵として使うのも、その一環だったのかもしれない。

映画は、二人のチェコ人の友情を中心にして展開していく。その二人が、戦闘機乗りとして互いに協力しあう一方、あるイギリス女性をめぐって恋のさや当てをする。そのイギリス人女性は既婚者で、夫は戦場で行方不明になったということになっている。その立場につけこむ形でチョコ人の二人が口説きにかかるというわけだ。

その恋のさや当てが原因で、二人は気まずい関係になり、挙句、若い方は戦死してしまう。生き残った年上のほうは、祖国に戻った後、親ソ政権によって拘束される。罪状は英軍の兵士として戦ったことだ。その親ソ政権をこの映画は、ナチスと同類の非人間的政権として描いている。この映画が作られた2001年には、すでに東欧の親ソ政権はみな崩壊していた。だからその親ソ政権にどんな悪態をついても、身の安全にさしさわりはなかった。




HOME東欧映画 チェコ映画









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2021
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである