壺齋散人の 映画探検
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水の中のナイフ:ロマン・ポランスキーの映画



ロマン・ポランスキーの1962年の映画「水の中のナイフ」は、かれの監督デビュー作である。ポーランド国内ではまったく話題にならなかったが、ハリウッドでは絶賛された。この頃のポーランドは、まだ西側世界とは隔絶しており、アンジェイ・ワイダを除いては、ポーランド映画はほとんど知られていなかった。そこへハリウッド的な雰囲気を感じさせる映画が東側のポーランドから出てきたのが新鮮に映ったのだろう。また、ロマンスキーがゲットーの生き残りだったということも、ユダヤ人が支配しているハリウッドに親近感を持たせたのだと思う。

ポーランドの上層で豊かな暮らしをしている夫婦と一人の若者が、ヨットを楽しみながら一夜を送るという設定だ。ヨットの中の人間関係を描くという設定は、2年前の1962年に、アントニオーニの「太陽はひとりぼっち」やルネ・クレマンの「太陽がいっぱい」にも用いられて、ちょっとした流行になっていた。その流行に乗ったかたちで、ハリウッドに受け入れられたのであろう。それにこの映画は、アート・ブレイキー流のモダンジャズを流しており、そこにも新鮮味を感じさせる要素があった。

筋書きはいたって簡単だ。湖へレジャーに向かう夫婦が、たまたまめぐりあった若者を車に同乗させ、あげくにヨット仲間に加える。加えたのは夫のほうだが、かれがなぜ若者を仲間にいれたか、その理由は最後までわからない。

最初は仲良くやっていたが、一夜開ける頃から夫と若者の関係がおかしくなり、ひと騒ぎが起こる。若者の持っていたナイフのことで諍いとなり、夫が若者を湖に中に突き落としてしまうのだ。若者は泳げないと言っていたので、妻は大いに心配する。だが水の中に消えたままだ。妻はてっきり死んだものと思い、夫をさんざんせめる。その夫婦喧嘩がもとで、夫は一人で泳いで岸にあがってしまう。

その夫の不在中、死んだと思った若者がヨットにあらわれる。若者は夫婦の目から隠れていたのだ。かれはその妻に欲情を催していた。妻の豊満な肉体を目にしつづけていたからだ。妻のほうもその欲情を受け入れる。彼女もまた、激しく欲情していたのだ。おそらく欲求不満だったのだろう。

陸へ上がった妻は、夫と再会する。夫は若者を殺したと思い込んでおり、これから警察に出頭するという。そんな夫を妻はいさめる。若者は生きていて、自分を抱いたくらいだから、なにも心配することはないというのだ。そこで夫も事態を理解し、警察へいくことはやめる。といって、妻をせめるわけでもない。妻を寝取られたのは自分のせいだと諦めているようなのだ。

こんな具合に実にとりとめのない映画である。海ではなく、湖でヨット遊びをするというのが、この映画のユニークなところだ。たいして広くもない湖でヨットを走らせて、どれほど面白いのか、それは当人でなければわからぬのだろう。




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