壺齋散人の 映画探検
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ノスタルジア:アンドレイ・タルコフスキー



1983年公開の映画「ノスタルジア」は、アンドレイ・タルコフスキーがイタリアで制作した作品だ。完全にイタリア映画と言ってよい。資本もスタッフも俳優も、殆どすべてイタリアのものだ。言葉もイタリア語だ。ただ主人公のロシア人は、ロシア人のオレーグ・ヤンコフスキーが演じ、彼が独白するシーンにはロシア語が使われる。

筋らしきものがなく、延々とした映像のつながりが続くといった不思議な印象を受ける映画だ。その映像のつながりといえば、タルコフスキー一流のロングショットの長回しの積み重ねといった具合で、とにかくワンショットが長い。そのショットの中で登場人物たちが、ゆっくりと動くので、観客はある種のスローモーション・シーンを見せられているような感覚を抱く。

筋書きを無理に抽出するとこういうことになろうか。一人のロシア人がイタリアにやって来て、なにやらこだわりらしいものを追求している。そのロシア人はイタリア女を通訳にやとっているが、その女がロシア人に惚れたらしくて、自分を抱いて欲しいと願うのだが、ロシア人には女を抱く趣味はないらしく、放っておく。すると欲求不満になったイタリア女はヒステリーを起こしてローマに去ってしまうのだ。

それまで二人がいた町は、どうやらフィレンツェらしいのだが、丘の上から俯瞰したその街並は、筆者が覚えている限りのフィレンツェのイメージとは大分違うようだ。フィレンツェの街を俯瞰できる丘としては、ミケランジェロの丘ということになろうが、映画の映像からは、どうもそのようには伝わってこない。

もう一つの重要な舞台はバーニョ・ヴィニョーニという温泉なのだが、これはフィレンツェの西の郊外に位置する。そこでロシア人は不思議なイタリア人と邂逅する。そのイタリア人は、ある種の宗教改革を企んでいるようなのだが、真相はよくわからない。ただ、そのイタリア人からロシア人は、蝋燭の灯りをつけたままヴィニョーニの温泉を渡り歩けと言われる。そう言ったイタリア人は、ローマに出てきて通行人を前に宗教改革を訴える説法をした後、自分の身にガソリンをかけて焼身自殺してしまうのだ。

それを知ったロシア人は、イタリア人との約束を思い出し、急ぎヴィニョーニの温泉にでかけていって、そこで蝋燭の火をともしながら温泉を渡るのだ。そして渡り終えたところで倒れてしまう。彼が倒れたところで映画も終わるのである。

こういうわけで、筋書きから読み取れる限りでは、いったい何をタルコフスキーは訴えたかったのか、ほとんど意味不明である。何となく意味が分かるのは、主人公のロシア人がこの世に生きることにうんざりしているらしいことだけである。かれが最後に死ぬのは、その気分の現れであるといわんばかりだ。

主人公のロシア人の頭髪が、右上の一部だけ白くなっていて、まわりから浮かび上がっている。この白髪模様は、ストーカの主人公にもあったものなので、筆者ははじめ同じ俳優が演じているのかと思ったが、そうではなかった。タルコフスキーの趣味なのかもしれない。

その白髪模様を主人公のロシア人がちらちら見せながら、火をともした蝋燭を抱えて温泉を渡っていく。そこが映画の見どころなのだが、そのシーンというのが非常に長くて、十分くらい延々と続く。そのシーンは、主人公が蝋燭を気にしながらただひたすらに歩くだけだ。それを見ていると、タルコフスキー独特の時空感覚がなんとなく伝わってくるような気がする。

なお、タルコフスキーはこの映画を作ったあと、そのままイタリアに残り、ロシアには戻らなかった。




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