壺齋散人の 映画探検
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新藤兼人「鉄輪」:女の嫉妬をテーマにした能作品



新藤兼人の1972年の映画「鉄輪」は、古能の傑作「鉄輪」を映画化したものである。それも単にストーリーを横引きしてというようなものではなく、原作の能の雰囲気が充分に堪能できるように工夫されている。能の仕舞に合わせて謡曲の一節が披露される一方で、音羽信子演じる昔の女が出て来て、能と全く同じ所作をする。と思うと、音羽と相棒の観世栄夫が現代の夫婦となって出て来て、鉄輪の嫉妬譚を現代に蘇らせるというわけで、かなり凝った作り方をしている。ただしあくまでも原作の能「鉄輪」の面白さに乗っかっている作品なので、能に興味のない人には退屈かもしれない。

能「鉄輪」は、夫の嫉妬に狂った女が、京都の貴船神社に詣でて、夫を呪い殺そうとするも、夫に依頼された陰陽師の法力によって調伏されるという内容だ。見どころは、前半で狂った女が、人形にくさびを打ち込み、夫の浮気の相手を呪い殺そうとするところと、後半で夫の浮気の現場を押さえた女が、鉄輪を振りまわして力いっぱい夫を打擲する場面。そういう見どころの場面を、映画も見せどころとばかり強調して演出している。

音羽は、毎夜のように貴船神社に走って行っては、杉の巨木に藁の人形を結わえ付け、その人形の陰部に釘を打ち込む。すると夫と浮気をしている最中の女が陰部に痛みを覚えてのたうつ具合。後半では、浮気で抱きあっている夫と女のその現場を、頭上に蝋燭を立てた音羽が、鉄輪を振り回して二人を打擲するところが、この映画の大きな見どころだ。鉄輪というのは、輪を先端につけた鉄の棒のことで、これで人を打擲するように出来ているのである。

この映画では、能役者の観世栄夫が夫の役で出て来て、それがフラワーメグ演じる若い女とセックスを繰り返すのであるが、この映画は殆どがそのセックスの場面からなっているので、いささか食傷気味にならないでもない。観世は役得とはいえ、若い女を存分に抱くことが出来て、さぞ本望であったことだろう。



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