壺齋散人の 映画探検
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キカ:ペドロ・アルモドバル



ペドロ・アルモドバルの1993年の映画「キカ(Kika)」は、セックスと殺人をテーマにしたコメディ・タッチの作品だ。セックスとそれに関連した不道徳はアルモドバルの作品の特徴だが、この映画では、不道徳は意味のない殺人という形で現われる。一方セックスのほうは、奔放な女の男あさりとか、見境のない強姦といった形で現われる。なにしろセックスこそが人間の生きる意味だとばかり、この映画ではセックスが謳歌されている。ここに我々東洋の観客は、スペインという国に、フランスやイタリアに劣らないセックス好きの文化を見いだすことになるのである。

キカというのは、この映画の女主人公の名前である。彼女はある有名作家のメーキャップを担当したことから、その作家の家に招かれる。彼女はセックスを期待して行ったのだが、案に反して、若い男の死体に死化粧を施すことを要求される。びっくりした彼女が死化粧を施していると、どういうわけか若者は生き返るのである。

その若者ラモンは作家の息子だと紹介されるが、実の息子ではない。作家の死んだ妻の連れ子だ。その妻は自殺したということになっているが、実は作家が殺したということが後で明らかになる。この作家はほかにも女を殺しており、いわば殺人鬼の資質を持ったものとして描かれているのである。

キカは、ラモンと同棲する一方、作家とのセックスも楽しんでいる。ラモンは経済力があるようで、豪華なアパート住まい、メイドまでやとっている。そのメイドを演じるのが、アルモドバル映画の常連ロッシ・デ・パルマだ。彼女は同棲愛者であり、かつまた実の弟に自分を抱かせてもいる。不道徳の典型といってよい人物像なのだ。その弟が刑務所を脱走して、彼女を頼って来る。モンなしの弟は、家の品物を窃盗しようとし、そのアリバイ作りに姉を縛り上げたりするが、キカが寝ている姿を見て催してしまい、猛然と彼女に乘って強姦に及ぶ。突然一物を入れられたキカはびっくりするが、弟はいつまでも入ったままだ。そのうち警察が踏み込んで来る。誰かが現場を目撃し、通報したのだ。弟は急いでズボンを摺り上げると、そのまま窓から脱出するのである。ここの部分がこの映画のハイライトといってよい。

警察に通報したのは、実はラモンだった。かれはアパートの向かいの部屋からキカの様子を盗撮していたのだ。なぜそんなことをしたのか、事情は明かにはされない。しかし盗撮されていたことを知ったキカは怒る。その怒りは、自分の強姦されているシーンがテレビで放映されたことで頂点に達する。放映したのは、テレビの演出家を名乗る不思議な女で、彼女はさまざまなスキャンダルをとりあげては、それの実像をテレビ放映するのが趣味なのだ。もともとは心理学者だったが、テレビの仕事のほうが気に入っているのだ。彼女のあらたな目標は、作家のスキャンダルを追求すること。彼女は作家のなかに犯罪の匂いをかぎ取って、それを暴き出そうとするのだ。ところが返り討ちにあって、作家に殺されてしまう。またラモンも作家と一緒にいる間に死んでしまう。作家に殺されたのか、あるいは前回同様発作に見舞われたのかはわからない。ともあれ、キカに発見されて、足に電気ショックを与えられると、再び生き返るのだ。

こんな具合で、全編がどたばた風の喜劇に仕上がっている。一つわかりにくいのは、作家がなぜ妻を殺したかだ。妻は作家を深く愛していながら、作家から危害を与えられたわけだが、その理由がいまひとつわからない。作家は作品の参考になるものを探してあちこちに旅したりしているのだが、あるいは妻殺しも作品の材料にするつもりでしたのかもしれない。だとしたら、実に手前勝手で不道徳な行為と言うほかはない。




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