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アレハンドロ・アメナーバル「アザーズ」:スペイン流の幽霊映画



アレハンドロ・アメナーバルの2001年の映画「アザーズ(Los Otros)」は、スペイン流の幽霊映画である。日本で幽霊映画といえば、生きている人間が幽霊に悩まされるというパターンがほとんどだが、この作品は逆に、幽霊が生きている人間に悩まされたり、幽霊同士が脅かしあったりする。実に奇妙な映画である。

舞台は第二次大戦直後のチャンネル諸島ジャージー島。そこにある広壮な屋敷に母親と二人の子どもからなる家族が住んでいる。父親は兵役に志願したまま音信不通だ。そこにある日、三人の人間がやってきて、雇ってほしいという。母親は、前の使用人が突然消えたために、後釜の採用を考えていた矢先だったので、かれらを雇うことにする。かれらが何故、ここにやってきたのか不思議に思いながら。というのも郵便の不都合で、求人の広告が動いていなかったからだ。

三人のうち一人は老人でガードナーをつとめることになる。老女は執事役をつとめ、中年女が食事などの雑事にあたることになる。こうして主人母子と使用人との共同生活が始まるのだが、なぜか奇妙な出来事が頻発する。息子は家のなかでヴィクターという子供と話したと言ったり、母親の部屋では天井がガタガタ揺れたりする。母親はそれを使用人の仕業と思って叱責したり、また子供たちには嘘をついてはいけないと諭したりするのだが、不思議な出来事はやむ気配がない。

そのうち、死んだと思っていた夫が帰って来て、母親は一安心。しかしその夫もまもなく姿を消してしまう。惑乱した母親は、使用人が憎くなり、解雇してしまう。解雇された三人は、実は150年前に死んだ人たちだったということがわかる。かれらは150年前に結核で死んで、邸の敷地内に墓もあるのだが、どういうわけか人間が恋しくなって、この世に現われたらしいのだ。

不思議はまだ続く。三人が去った後に、別の人間たちが邸に押しかけて来る。三人に言わせると、かれらもずっと前に死んだ人間たちだというのだ。母親は大いに驚く。驚きはほかにもあった。実は自分自身も既に死んでいたのだ。夫がいなくなって絶望した彼女は、子どもたちを殺して、自分も自殺したのだった。そのことを彼女は、あの日のこととして覚えているはずなのだが、そのことに抑制が働いて、意識に上ることがないのだ。だがいまや、多くの死人たちの幽霊に取囲まれて、自分たち母子も幽霊だったと認めざるをえなくなるのである。

そんな折に、この家に住んでいた、生きている人間の家族が、引っ越しして出ていくこととなる。邸のなかで生じていた不思議な出来事には、実はかれら生きている人間がかかわっていたのである。かれら生きている人間の影に、死んだはずの人間の幽霊が怯えていたというわけなのであった。

こんな具合に、見方によっては随分人を馬鹿にした映画である。だが観客は、最後まで事情が分からないので、あたかも生きている人間が幽霊に悩まされていると思い込まされたままラストシーンを迎える。つまり騙されっぱしなしなのであるが、その騙された状態がなんとも愉快なのである。

なお、子どもたちにとって光がタブーとして提示され、それが病気のせいだとコメントされるのであるが、なぜ光がタブーになるのか、説得的な説明はない。そこに観客は強いストレスを感じるはずなのだが、その説明はラストシーンで突然明かされるのだ。幽霊は光を恐れるという具合に。それにしては、同じ幽霊である母親や三人の使用人は光を恐れてはいないのだが。ともあれその光を常に遮断しているおかげで、画面には特殊な迫力が生まれている。



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