壺齋散人の 映画探検
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ダビド・トルエバ「<僕の戦争>を探して」:ビートルズへのオマージュ



ダビド・トルエバはフェルナンド・トルエバの弟だが、年の差も離れ、別々に活動している。2013年の作品「「僕の戦争」を探して(Vivir es fácil con los ojos cerrados)」は彼の代表作である。原題は「目を閉じれば生きるのはやさしい」という意味で、ビートルズの曲「ストリベリーフィールズ・フォーエヴァー」の一節。この映画は、あるビートルズ狂をめぐる愉快な出来事を描いたものなのだ。

ラ・マンチャ地方アルバセテの学校で教師をしているアントニオ(ハビエル・カマラ)はビートルズの大ファン。スペイン南部のアルメリアという町で、ジョン・レノンが映画撮影をするという情報を得て、是非その場に赴いてレノンに会いたいと志す。そこでポンコツ車に乗って出かけるのだが、その途中で、一人の若い女性と一人の少年に出会い、旅をともにする。アルメリアに着くと、アントニオと若い女性ベレン(ナタリア・デ・モリーナ)は一軒のホテルに分宿する。つまり別々に部屋をとるというわけだ。彼女は、あてもなくヒッチハイクをしていたのだったが、実は目下妊娠中だと告白する。さる施設で人知れず出産しようと思っていたが、心が動揺して、その施設を抜け出してきたというのだ。

一方少年はファンフォといって、家出をしてきたのだった。家出の原因は父親への反感。気に入っている長髪を無理にカットしようとする父親が我慢できなくて、家を飛び出てきたのだ。この少年は、アントニオの口利きで、ホテル近くのバーに住み込みで働くことになる。

こうして三人の男女の協同生活が始まる一方、なんとかしてジョン・レノンの所在をたしかめて、彼にあってもらおうとする。しかしジョン・レノンは人見知りが強くて、知らない人を寄せ付けようとはしない。それまで演奏旅行で立ち寄ったさまざまな場所で、群衆にグチャグチャにされてきたからだ。撮影現場という場所にはなかなか近づけないし、撮影結果をチェックしているという町の映画館にジョン・レノンは現れない。しかしあれこれ努力しているうちに、アントニオは単身ジョン・レノンに面会でき、あまつさえ新曲のデモテープまでもらえた。

すっかり満足したアントニオは、ベレンにプロポーズする。ところがベレンは、ファンフォのほうにひかれているらしく、夜間ファンフォの部屋に忍び入って、かれにセックスの手ほどきをしてやるのだ。アントニオは、気持ちはいい男だが、なにしろ年を食っており、しかもつるっ禿だ。いかに容姿にこだわらない女性でも、二の足を踏むところだ。一方ファンフォはまだ十六歳で、未熟な果実とはいえ、若々しい魅力に富んでいる。同じ抱くのなら若者にしくはないとばかりに、彼女は未熟なファンフォをリードするのである。そこはセックスの探求者スペイン人のこと。セックスを人生のオアシスとばかり享楽するのである。

映画のラストシーンは、マドリードに向けて出発するベレンとファンフォに、アントニオがジョン・レノンのデモテープをプレゼントする場面。このテープからは、「ストロベリー・フォー・エヴァー」の曲が流れて来るのだ。ちなみにそのシーンでアントニオは、生徒からもらった自分の綽名を公表する。それは「五人目のビートルズ」というものだった。

こんな具合に、男女のすがすがしい性愛をテーマにしたすがすがしい映画である。なお、アルメリアはスペインの南海岸の町。そこの人のなまりがひどいとアントニオはいうのだが。この地に限らず、スペインは地方ごとに方言の相違が甚だしく、場合によっては外国語を聞いているような気になると言う。



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