壺齋散人の 映画探検
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マイケル・コリンズ:アイルランド内戦を描く



1996年のアイルランド・英米合作映画「マイケル・コリンズ」は、アイルランドの伝説的な政治指導者マイケル・コリンズをテーマにした作品。コリンズは、1910年代における対英独立闘争を指導し、英蘭和解の後に勃発した内戦では、対英協調派の指導者として活躍し、1922年に反対派によって殺害された。映画はそんなコリンズの戦いの半生を描く。

コリンズには仲のよい同士ハリー・ボランドやボスと呼んで慕っているデ・ヴァレラ、またハリーとの間で三角関係になった女性キティの存在があって、映画はかれらの人間関係を中心にして展開していく。前半はかれら四人が揃って対英闘争に邁進する様子を描き、後半は内戦状態になりコリンズとハリー、デ・ヴァレラが対立するさまが描かれる。その対立の中でハリーは対英協調派に殺され、コリンズはデ・ヴァレラによって殺される。

デ・ヴァレラは、のちにアイルランド政府の指導者になり、対英強硬派としてアイルランド国民の人気が高かった。コリンズはその影に隠れて、目立たない存在だったが、EU加盟などを通じて英国との関係が深まると、アイルランドの歴史に屹立する偉人としての評価が高まってきている。この映画はそうした風潮の変化を反映し、コリンズを民族の英雄として描いているわけである。

前半・後半を合わせて三時間を超える大作であり、ほとんどが闘いの場面からなっている。前半は対英闘争に伴うテロの応酬、後半は内戦で同胞が殺しあう凄惨な場面がすさまじい。英国側の指導者としてチャーチルが出てくる。かれは冷徹な打算者として、アイルランド人を無慈悲に殺す一方で、英国のおかれた状況を踏まえてアイルランドとの和解を模索する狡猾な政治家としての側面もあった。チャーチルをアイルランドとの和解に踏み切らせたのは、おそらく第一次大戦の都合だったと思う。

なお、アイルランドの対英独立戦争と、その後の内戦を描いた映画としては、ケン・ローチの2006年の作品「麦の穂をゆらす風」がある。ローチの映画は、兄弟がともに対英戦争を戦ったのちに、内戦では敵として闘いあうさまが描かれる。その闘いの中で、兄は自分の手で弟を殺すのである。




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