壺齋散人の 映画探検
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カラヴァッジオ:デレク・ジャーマン



カラヴァッジオは、イタリア・ルネサンス最後の巨人であり、またバロック芸術の先駆者といわれる。その陰影に富んだリアルな画風は、近代絵画のさきがけというにふさわしい。そんなカラヴァッジオだが、私生活はスキャンダルに満ちていた。いかがわしい連中と町を練り歩いてはスキャンダルを引き起こし、その挙句に殺人まで犯して、38歳の若さで死んだ。

デレク・ジャーマンの1986年の映画「カラヴァッジオ」は、そんなカラヴァッジオの半生を描いたものだ。カラヴァッジオの生涯のスキャンダラスな面と共に、同性愛者としてのカラヴァッジオに焦点を当てている。ジャーマンは自分自身が同性愛者なので、同じく芸術家の同性愛者としてのカラヴァッジオに親近感を抱いたのだろう。同性愛者としてのカラヴァッジオについて、詳しい伝記があるわけではないが、ジャーマンは自分自身の想像をまじえて、カラヴァッジオの同性愛を描いている。

映画は、カラヴァッジオがある村で行き倒れになり、そこに横たわりながら、自分の過去を回想するという形をとっている。その回想の中で、まず一人の少年を従者としてもらい受ける場面が出て来るが、その少年は、成長していまカラヴァッジオの床を見守っている。その従者の名はパスカローネといい、カラヴァッジオの男色相手のようである。もっとも映画は、彼らの間の同性愛を映し出しはしない。

ついでカラヴァッジオが画家としての名声を獲得するまでの過程が描かれる。ナポリからローマにやってきたカラヴァッジオは、路上で絵を描いて売ることで生計を立てていたが、そのうち、バチカンの枢機卿に認められて註文を受ける。それは聖マタイの殉教をテーマにした絵だったが、これによってカラヴァッジオの名声は確立する。

カラヴァッジオには同性愛の傾向があるということになっていて、彼なりに魅力を感じる男があらわれると、近づきになりたいと思う。ある時、そんな魅力ある男ラヌッチオと出会うのだが、彼にはレナという恋人があった。カラヴァッジオは、ラヌッチオをモデルに絵を描く一方、レナもモデルに使った。愛の勝利のキューピッドのモデルはレナだ。カラヴァッジオは、ラヌッチオとの間で同性愛を育む一方、レナとも関係を持つ、つまりこの映画の中のカラヴァッジオは、バイセクシュアルなのだ。

映画は、レナが殺されたことで大展開を迎える。殺したのはラヌッチオで、その理由はレナが他の男の子どもを妊娠したことだった。ところがカラヴァッジオは、法王の弟が殺したと思い込んでいる。そこで、逮捕されたラヌッチオを努力して解放してやるのだが、自分がレナを殺したと告白されて、怒りの感情からラヌッチオを殺してしまう。つまり、この映画は、三角関係のもつれから、カラヴァッジオが殺人を犯したということにしている。

殺人を犯したカラヴァッジオはローマを逃げ出し、イタリア各地を放浪したあげくに、冒頭の場面で出て来た村で倒れるというわけである。結局カラヴァッジオは、病気が回復せず、そのまま死んでしまう。そんなかれを、見守る人々もいて、カラヴァッジオはかならずしも惨めに死んでいったわけではないと、観客に思わせるのである。

カラヴァッジオがテーマだとあって、映画の中では、カラヴァッジオの傑作が多数紹介されている。聖マタイの殉教や愛の勝利のほか、メドゥーサ、聖ヒエロニムス、マグダラのマリアなどである。ともあれこの映画によって、カラヴァッジオへの関心が世界規模で高まった。




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