壺齋散人の 映画探検


デヴィッド・リーンの映画:作品の解説と批評


デヴィッド・リーン(David Lean)はイギリス映画を代表する監督の一人である。日本人にとっては、「アラビアのロレンス」や「戦場にかける橋」がとくに馴染み深く、アクション映画の巨匠という受け取り方がされているが、出世作となった「逢引き」は、恋愛映画として屈指の名作である。イギリス人は、ラテン系の民族と比べ、男女の性愛に淡泊と思われているが、この映画の中の男女も、節度をもって恋をしている。そんなかれらの恋のあり方を見ていると、日本人としてもなんとなく共感できるものがある。

戦後に作った「旅情」も、男女の恋をテーマにしたものだが、こちらはイギリス人ではなく、アメリカ人の女性がヨーロッパ旅行を楽しみ、その旅のかき捨てとして恋のアヴァンチュールを楽しむというような内容である。デヴィッド・リーンはイギリス人として、同胞の淑女が旅のかき捨てとしての恋愛ごっこを楽しむというふうにはなかなか出来ず、アメリカ女に尻軽なところを演じさせたのであろう。なお、その尻軽なアメリカ女を、アメリカ人の敬愛を一身に集めたといわれる女優キャサリン・ヘップバーンが演じている。彼女が演じると、尻軽にも味が出てくる。

「戦場にかける橋」は、タイメン鉄道建設にかかわる日本軍と英国軍との対立をテーマにしており、その過程で、英軍将校と日本軍将校との触れ合いのようなものが描かれる。だが、「大いなる幻影」におけるような、心のかよった友情には発展しない。デヴィッド・リーンには、日本に対して親愛な気持ちはないようだ。

「アラビアのロレンス」は、イギリスの諜報員として有名なロレンスの活躍を描いたもので、デヴィッド・リーンの代表作というべきものである。ロレンスの勇猛さや知性のほかに、かれの弱さも描いている。ロレンスはトルコ兵による拷問を受けた際に、肛門を凌辱されるのだが、その後すっかり意気消沈して、男らしさを失ってしまうのである。

「ドクトル・ジバゴ」は、パステルナークの有名な小説を映画化したもの。この小説の原作は、ロシア革命によって翻弄される個人の生き方をテーマにしていた。映画はその雰囲気をよく出しているといえる。また、「ライアンの娘」は、アイルランドの対英独立闘争を背景にしているが、リーンの視線はアイルランドに同情的であるとはいえない。かえって嘲笑的なものを感じさせる。それは、主人公のアイルランド女が、亭主に内緒でイギリス男になびく尻軽な女として描かれていることから明らかに見て取れる。

デヴィッド・リーンにはほかに、「大いなる遺産」や「オリヴァー・ツイスト」といった文芸作品の映画化もある。

こうしてみると、アクション映画にとどまらず、けっこう広いジャンルの映画を作っていることがわかる。ここではそんなデヴィッド・リーンの代表作品を取り上げ、鑑賞のうえ適宜解説・批評を加えたい、


デヴィッド・リーン「逢いびき」:世界映画史上最高の恋愛映画

デヴィッド・リーン「オリヴァー・ツイスト」:ディケンズの小説を映画化

デヴィッド・リーン「超音ジェット機」:イギリスのジェット機開発

デヴィッド・リーン「旅情」:アメリカ女の旅の恥のかきすて

デヴィッド・リーン「戦場にかける橋」:日本軍によるイギリス軍兵士の虐待

デヴィッド・リーン「アラビアのロレンス」:トルコからのアラブの独立運動

デヴィッド・リーン「ドクトル・ジバゴ」:パステルナークの小説を映画化

デヴィッド・リーン「ライアンの娘」:アイルランド人女性の奔放な生き方

デヴィッド・リーン「インドへの道」:イギリスによるインド支配



HOME内容へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2015
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである