壺齋散人の 映画探検
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ケン・ローチ「天使の分け前」:反社会分子の社会包摂


ケン・ローチの2012年の映画「天使の分け前(The Angels' Share)」は、イギリスにおける反社会分子の社会包摂をテーマにした作品。さまざまな非行で、裁判所から反社会的分子と認定された人間が、社会復帰の機会を与えられて、正常の生き方を取り戻す過程を描いている。

日本では、犯罪を犯して反社会分子のレッテルを貼られたものは、社会から排除されて刑務所等に隔離される傾向が強いのだが、イギリスでは、排除してしまうのではなく、なるべく社会の中で立ち直らせる方法が選ばれているようだ。よく言えば、包容力があるといえるが、悪く言えば、おせっかいということになる。この映画の中では、主人公の青年は、一応社会復帰に成功したことになっているから、ただのおせっかいではなく、社会への包摂が成功したといえるのだろう。

暴力沙汰で反社会分子のレッテルを貼られた青年ロビーが、300時間の社会奉仕を命じられる。それを無事にこなしたら、とりあえず無罪放免になれるのだ。その青年を、ある中年男ハリーが引き受ける。ハリーのもとには、ロビーと同じような境遇の青年たちがいて、みな地味な作業に励んでいる。壁塗りとか掃除とかいったものだ。

そのハリーと青年らとの間に、心の交流が生まれる。ウィスキーがきっかけだ。ハリーはウィスキーの鑑定がうまく、自分で気に入ったウィスキーを青年たちに振舞う一方、かれらを醸造所につれていってやったりする。醸造所では、一樽が数十万ポンドもするような高価なウィスキーも保存されている。

グラスゴーとかエディンバラといったスコットランドの町を舞台にして、色々ないきさつがあるのだが、ロビーが高価なウィスキーを盗み取るところが映画のハイライトだ。苦労したあげく、エデォンバラの城の中に保存されている樽からボトル三つ分のウィスキーを盗むことに成功する。そのうち一本は誤って割ってしまい、もう一本は、ウィスキーの売人に10万ポンドで売りつける。そして残った一本を、感謝のしるしとしてハリーに贈るのだ。かれはそれを「天使の分け前」と呼ぶ。その本来の意味は、保存中に蒸発してしまう部分をいうのだが、この場合には、感謝のしるしとしての分け前というわけだ。ハリーはロビーたちにとって、天使のような存在なのだ。

というわけで、善意にあふれた映画というべきである。だいたいがコメディタッチで描かれているところも、善意の表現としてふさわしいのではないか。日本の寅さんシリーズがそうであるように。


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