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マイク・リー「秘密と嘘」:現代イギリス人の家族関係




マイク・リーの1996年の映画「秘密と嘘(Secrets & Lies)」は、現代イギリス人の家族関係の一面を描いた作品。この映画を見ると、イギリス人の家族は基本的に核家族であり、夫婦関係とか親子関係が非権威的だという印象を受ける。この映画にはもう一つ、人種問題というテーマがある。もし家族の一員に黒人が加わることになったら、イギリス人の家族はどう反応するか、それをこの映画は正面から描く。だから人種差別を考えさせる映画という言い方もできる。

主人公は、シングルマザーとして厳しい生活を送ってきた中年女シンシア。シンシアには二十歳の娘がいる。母子関係はあまりうまくいってない。貧困が理由だ。シンシアには弟がいて、写真館を経営している。弟は妻とはあまりうまくいっていないが、子どもがいないことがその主な理由だ。弟の姉との関係は悪くはない。

こういう状態の家族に、黒人の若い女性が絡んでくる。その黒人女性は、シンシアが十六歳のときに産んだ子なのだった。そのへんの状況はよくはわからないが、シンシアはその子を生むと、顔もろくろく見ないうちに養子に出す。それ以来全く会ったことがないのだ。

その黒人の娘ホーテンスは、育ての親がなくなったあとで、生みの親に会いたくなる。色々と努力したのちに母親の所在をつきとめ、ついに面会に成功する。母親は最初彼女に会うのを拒絶していたが、やはり母子の情愛からだろう、彼女と面会を重ねるうちに、母としての感情にめざめる。

そんなことを踏まえて、母親はこの黒人の娘を家族のメンバーに紹介し、できれば家族の一員として迎え入れたいと思うようになる。ところが、もう一人の娘からは拒絶され、ほかのメンバーからも理解されない。ひとり弟だけが、事実を受け入れてホーテンスを迎えることに同意する。それにほだされて、他のメンバーも次第にホーテンスを受け入れていく、といったような内容だ。

この映画の中では、黒人であるホーテンスがもっとも理性的な存在として振る舞っている。彼女は自分に対する差別を、決して許しているわけではないが、さりとてヒステリックに反発するのでもない。人間の価値は肌の色で決まるものではないということを、自分自身の言動を通じて相手に認めさせようとする。

こんな具合に、この映画はかなり社会的な視線を感じさせる作品である。監督のマイク・リーは舞台の出身で、この映画においては、脚本を作らずに、俳優と協働しながら作り上げていったそうだ。




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