壺齋散人の 映画探検
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チャップリンの冒険:アメリカ警察をあざ笑う



「チャップリンの冒険(The Adventure)」は、アメリカの警察をあざ笑った映画である。アメリカの警察は、移民社会の自警団のようなものから出発しており、国家権力の象徴という意味合いよりは、白人社会の自己防衛装置としての色彩が強かった。自己防衛ということは、よそ者に対して攻撃的であることを身上とする。攻撃されるほうは、たまったものではなく、警察に対して強い不信感を持たざるを得ない。この映画は、攻撃される立場の目から見た、アメリカ警察への不信感とか不快感をもとに、アメリカ警察をあざ笑ったものと言える。権力に対して常に距離感をとっていたチャップリンらしい作品だ。

主人公のチャップリンは、刑務所から脱走してきたばかりである。追っ手をなんとか振り払ったチャップリンは、海でおぼれていた貴婦人の母娘を救出する。ついでに娘に言い寄るデブ男まで助けてやる。すっかり感謝されたチャップリンは、貴婦人の豪邸に客人として滞在する。そこで例の如くドタバタ騒ぎを引き起こすのだが、チャップリンが脱獄囚であることをかぎつけたデブ男が、警察を呼び込む。ここでチャップリンと警察との一大ドタバタ劇が展開した挙句、チャップリンは意気揚々と去ってゆく、という筋書きの映画である。

わずか二十分ちょっとの長さであるから、本格的な筋はない。警察に追われるチャップリンが、警察やデブ男を相手に大太刀まわりを演じ、警察をさんざんからかって見せるというものだ。その警察も、邪悪な存在というよりは、同じゲームを楽しんでいる愉快な相棒といった風貌を見せる。そこに罪のない笑いが生まれるというわけである。

からかわれているのは警察だけではない。貴婦人の豪邸に集まった上流階級の紳士淑女もからかわれている。たとえばバルコニーの上から、下にいる淑女の背中にアイスクリームを落としたりとか、巨大な女のダンスの相手になって引きずりまわされる紳士の滑稽振りとかである。この連中がそもそもアメリカの警察を発明したのだ。発明品だけを貶めて、発明者を無事済ますのは片手落ちというものだろう。

映画のはじめの部分でチャップリンが着ている囚人服は、チャップリンによく似合っている。この横縞模様の囚人服は、アメリカ映画でよく見かけるが、実際にアメリカの囚人はこんな模様の服を着せられていたのだろうか。これなら、どこへ逃げてもすぐにわかろうというものだ。



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