壺齋散人の 映画探検
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ジョン・フォードの映画:代表作の解説


ジョン・フォード( John Ford 1894-1973)は、アメリカ西部劇の傑作と言われる作品を数多く生みだしたとともに、「怒りの葡萄」を始めとして、するどい批判意識に貫かれた社会派映画も作った。また「わが谷は緑なりき」のように、人間性溢れる感動的な映画も作った。かれのすべての映画に共通しているのは、それが西部劇にしろ、社会派映画にしろ、人間に対する深い信頼であった。そうした信頼感は、未来への希望と神への信仰に支えられた、きわめてアメリカ的な心情であった。そういう意味で、ジョン・フォードは、アメリカの生んだ最もアメリカらしい映画監督だったと言える。

ジョン・フォードの映画人生は古く、監督デビューは1917年の「タイフーン」である。サイレント時代にはB級の西部劇映画ばかり作った。トーキーに代わっても西部劇を作り続けた。1936年の「駅馬車」は、かれの西部劇の代表作のみならず、アメリカ西部劇映画の最高傑作といわれている。その特徴は、開拓時代の白人の行動を無条件に正しいとし、インディアンと呼ばれる原住民を悪魔あつかいするものであった。これは実に人間性に反した醜悪な考えだが、フォードだけがそんな考えに染まっていたわけではなく、アメリカの白人全体が共有していたステロタイプである。そのステロタイプが壊れるのは20世紀の末近くになってからだから、フォードといえども、それに毒されていたのは、或る意味仕方のないことだったのかもしれない。

ともあれ、ジョン・フォードは自他ともに認める西部劇作家であり、生涯に作った136本の映画の大部分が西部劇である。それゆえ自分のことを常々西部劇映画の作家だと称していた。それについては有名な逸話がある。マッカーシー旋風が吹き荒れていたころ、セシル・B・デミルが、自分の気に入らぬジョゼフ・L・マンキーウィッツを赤呼ばわりして排斥しようとしたのに対して、次のように言い放った。「私の名はジョン・フォード。西部劇を撮っている。私はセシル・B・デミル氏以上に、アメリカの大衆が求めているものを知っている人はいないと思う。その点では敬意を払う。だがC・B、私はあなたが嫌いだ。あなたが支持するものも、今夜の振る舞いも大嫌いだ…」。これは、ジョン・フォードの剛直な人柄を物語るものとして、いまでも語りつがれている。

ジョン・フォードの西部劇には、二つのタイプがある。一つはインディアンと呼ばれる原住民との対立をテーマにしたもので、これは、初期にはもっぱらインディアンを悪の権化として描いていた。だが、戦後になると、次第にインディアンに同情的になっていく一方、インディアンを迫害する白人に批判的な目を向けるようになる。「アパッチ砦」以下の騎兵隊三部作とよばれる作品には、そうした視線が垣間見える。その視線が公然と働くようになったのは、晩年の「シャイアン」である。それまでインディアンへの同情を示していたフォードは、この作品でインディアンと白人との平和共存を訴えたのである。もっともそのころには、アメリカ原住民はほぼ絶滅あるいは無力化され、身近な問題とは思われなくなっていたのではあるが。

もう一つは、無法な白人たちに善良な白人が鉄槌を加えるといったタイプの作品である。「荒野の決闘」(1946)と「リバティ・バランスを撃った男」(1962)はそのタイプの代表的な作品である。

ジョン・フォードは、西部劇以外にもすぐれた映画を多数作っている。フォードの名声を一躍高めた作品「男の敵」(1935年)は、アイルランドの独立運動に命をかけた男たちを描いたものだった。ジョン・フォードはアイルランド出身ということもあり、アイルランドに拘り続けた。起用した俳優には、ジョン・ウェインやモーリン・オハラをはじめアイルランド出身者が数多くいたし、また「静かなる男」のように、アイルランドを舞台にした映画も作った。

「怒りの葡萄(1940)と「わが谷は緑なりき(1941)」も西部劇以外でのかれの代表作である。前者は、ジョン・スタインベックの原作をもとに、アメリカの農民たちの厳しい暮らしぶりと、資本家階級によるかれらの搾取と抑圧を描いた社会派映画であり、後者は、ウェールズの炭鉱を舞台にして、炭鉱労働者一家の厳しいが家族愛に満ちた生き方を詩情豊かに描いたものであった。アメリカ映画のみならず、世界の映画史に残る傑作だと思う。

ジョン・フォードはアメリカへの愛国心が強く、第二次大戦中は、前線で戦うアメリカ軍兵士たちの勇敢な戦いぶりを描いた。だが単純なプロパガンダ映画ではない。兵士の勇ましさを描く一方、戦いの厳しさにもスポットライトをあて、厭戦的な雰囲気をも感じさせもする。その辺は、ヒューマニストとしてのジョン・フォードの面目があらわれているのだと思う。またかれは、政治的には保守主義者であったが、先ほどの逸話にもあるとおり、1950年代にハリウッドでも吹き荒れたマッカーシズムなど、理不尽な風潮には終始批判的であった。

ジョン・フォードは、西部劇の印象があまりに強いために、とかく娯楽映画作家と見なされがちだが、「怒りの葡萄」のような社会的な視線を強く感じさせるところもあり、また独特の映像美も評価されて、近年はアメリカ映画を代表する映画作家としての名声を高めつつある。ここではそんなジョン・フォードの代表作を鑑賞しながら、適宜解説・批評を加えたい。


ジョン・フォードの映画「男の敵」:仲間を売った男

ジョン・フォード「駅馬車」:西部劇の名作

ジョン・フォード「怒りの葡萄」:スタインベックの小説を映画化


ジョン・フォード「わが谷は緑なりき」:感動のヒューマンドラマ

ジョン・フォード「荒野の決闘」:西部劇の最高傑作

ジョン・フォード「アパッチ砦」:騎兵隊の敗北

ジョン・フォード「三人の名付親」:愛すべき悪党たち

ジョン・フォード「黄色いリボン」:騎兵隊三部作

ジョン・フォード「リオ・グランデの砦」:騎兵隊三部作

ジョン・フォード「静かなる男」:アイルランドへのオマージュ

ジョン・フォード「捜索者」:アメリカ原住民を敵視

ジョン・フォード「リバティ・バランスを撃った男」:西部開拓民の対立

ジョン・フォード「シャイアン」:アメリカ原住民の苦境



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