壺齋散人の 映画探検
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ウディ・アレンのミュージカル・コメディ「世界中がアイ・ラヴ・ユー」



ウディ・アレンの作品「世界中がアイ・ラヴ・ユー(Everyone says I love you)」は、ミュージカル仕立てのラヴ・コメディである。完全なミュージカルではないが、随所に歌と踊りを取り混ぜて祝祭的な雰囲気を演出している。テーマは無論男女の愛だ。アメリカのミュージカルといえば、男女の愛をテーマにしないものはない。ウディ・アレンもその伝統に倣ったということだろう。

ウディ・アレンは売れない作家だ。妻に捨てられたことでアメリカから逃げ出し、パリで単身暮している。しかし妻の再婚相手やその子どもたち、妻が連れて行った自分の子どもとは仲良く暮している。自分の子どもを含めて妻の家に居る子どもたちはみな青春の最中で、恋愛を楽しんでいる。映画の大部分は、その子どもたちが繰り広げる恋愛を、ミュージカルタッチで描き出すことにある。

ウディ自身も、自分の娘に進められて恋愛を楽しむことにする。相手はアメリカ人のインテリ願望女性で、ヴェニスに観光にやってきたところを、やはりヴェニスにいたウディがモーションをかけ、二人は恋に陥る。ところが相手には夫がいた。彼女は夫を嫌っているわけではなかったのだが、シュールな感じのウディにいかれてしまったというわけなのだ。しかしその愛は長続きしない。ウディは突然捨てられてしまう。その理由を恋人は言おうとしない。ウディよりも亭主のほうが恋しくなってしまったのだ。その理由はどうやらセックスにありそうだ。

失意のどん底に陥ったウディを、別れた妻が慰めてくれる。二人はセーヌ川のほとりの、むかしよくデートした場所を訪れて、そこで昔の甘い時間を回想する。感極まった二人はダンスをし、別れた妻は感激のあまり空中を遊泳する始末だ。

このほか、さまざまな恋愛が同時並行的に繰り広げられる。それらの恋は軽快な歌と踊りで彩られる。

というわけでこの映画は、実に無邪気で、全身の筋肉をやわらげてくれる効果を持っている。余計なことを思わずに、虚心坦懐に楽しめる映画だ。

ひとつだけ政治的メッセージが含まれている。妻の義理の子どもの一人に共和党を熱烈に支持する男の子がいるのだが、その子がことあるごとに、右翼的なメッセージを連発し、民主党支持の父親を嘆かせる。ところがそれは、脳内の酸欠のために理性が惑乱していたためで、酸欠が直って理性が立ち直ると、すっかり民主党贔屓になった、というようなメッセージである。ウディの共和党嫌いが現われている部分だ。



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