壺齋散人の 映画探検 |
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マルクス兄弟は、トーキー時代になって頭角を現わした。サイレント時代の喜劇映画は、身体演技からなっていて、せりふが字幕で示される場合にも、言葉はあくまでも二義的だった。ところがトーキー時代になると、喜劇といえどもせりふをしゃべらねばならない。サイレント映画の人気者だったバスター・キートンやハロルド・ロイドはせりふをしゃべるのが苦手だったが、マルクス兄弟はせりふをしゃべるのがうまかった。そこで彼らがトーキー時代の喜劇のチャンピオンに躍り出たわけである。 1935年の作品「オペラは踊る(A Night at the Opera)」は、彼らの代表作である。この映画には、マルクス五兄弟のうち、グルーチョ、チコ、ハーポの三人が出ている。グルーチョはこのメンバーでは三番目の年だが、映画のなかでは彼が主演役だ。マルクス兄弟のほかの作品同様、もっぱらグルーチョが言葉をしゃべり、他の二人はその引き立て役に回っている。 筋は他愛ないものだ。イタリアの歌劇団が船でニューヨークにやってきて公演する。その公演に詐欺師のグルーチョがからむ。舞台のテノール役には有名な歌手が起用されることになっていたが、グルーチョは、自分の気に入った歌手に差し替えたいと思っている。そこで色々と手を尽くして自分の計画を成就しようとする。それにチコとハーポが絡んで大騒ぎを演じるというものだ。 見所は、イタリアからニューヨークに向かう船の中で展開されるどたばた騒ぎと、ニューヨークの歌劇場で繰り広げられるスペクタクルだ。船の中でグルーチョは、日本の感覚で言えば四畳半程度の狭い部屋をあてがわれるのだが、そこに荷物の中に隠れて船に紛れ込んできたチコら三人のほか、大勢の人間が押しかけてきて、超寿司つめになるシーンが秀逸だ。 歌劇場では、舞台に忍び込んで主演者の演技を邪魔しようとするグルーチョたちと、それをさせまいとする歌劇団長との間でスケールの大きい捕り物劇が展開される。これにニューヨーク警察が絡んだりして舞台は大混乱となる。その混乱のさなかで、ハーポなどは空中サーカスのような立ち回りを演じて、大いに観客を笑わせてくれる。 というわけで、これはせりふ付きのドタバタ喜劇といってよいのだが、せりふのほかにもう一つの要素、音楽をふんだんに取り入れてある。トーキーというのは、せりふばかりでなく、音楽も楽しめるのだ。この映画の中の歌劇団は、ヴェルディのトルヴァトーレを演じている。その部分はミューカル・コメディになっている。 |
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