壺齋散人の 映画探検
HOMEブログ本館東京を描く英文学ブレイク詩集仏文学万葉集プロフィール掲示板


サム・ペキンパーの映画:代表作の解説


サム・ペキンパーは、最後の西部劇作家といわれる。テレビ西部劇からキャリアを始めた。「ガンスモーク」とか「ライフルマン」といったシリーズものは日本にも輸入されて、ゴールデンタイムに放送され、小生も子供の頃には楽しみにしていた。ペキンパーの西部劇の特徴は、当時の西部劇がインディアンを悪者として描き、正義の白人が悪のインディアンを退治するといった趣向のものが多かったのに対して、ペキンパーはそういう人種差別とはあまりかかわりがなかった。「ビリー・ザ・キッド」は、むしろインディアンの立場からあくどい白人をやっつけるという、当時の西部劇の定式を覆すものだった。

映画を撮るようになっても、西部劇を撮り続けた。デビュー作の「荒野のガンマン」とか「昼下がりの決斗」といった作品だ。1969年の「ワイルド・バンチ」は、映画史上に残る西部劇の傑作である。ウィリアム・ホールデン演じるマッチョな強盗が、少数の仲間たちとともに列車強盗の大たちまわりを演じるこの映画は、悪党が主人公であるにもかかわらず、思わず彼らの行動に喝采したくなるような、心憎い演出をしている。

1971年の「わらの犬」は、ペキンパーにとっては最初の現代劇だが、テーマは暴力である。それもほとんど意味のない暴力だ。自分の生命を脅かす悪党どもに、一人で立ち向かう男を主人公にしたこの映画は、正当防衛とはいえ、振るう暴力が並大抵ではない。その暴力は、西部劇におけるように拳銃とかマシンガンではなく、棍棒とか手で持つ武器を用いて振るわれる。そういう武器は、身体の一部といってよいので、それで以て振るわれる暴力は、実に人間的な色彩を呈する。人間的な暴力というと語弊があるようにも聞こえるが、暴力とは本来人間的なものだ。この映画の場合のように、その暴力が、暴力のための暴力といった様相を呈する場合には特にそうだ。そういう暴力は、人間以外の生き物が行使することはない。

1972年の「ゲッタウェイ」は、タイトルどおり逃走劇である。スティーヴ・マックイーン演じる犯罪者が、女を連れて逃走し、何度も危機を乗り越えながら、ついにメキシコの無法地帯に逃げ込むというもので、犯罪者を描いているにかかわらず、その犯罪者を英雄視するようなところがある。ペキンパーにはこうしたシニカルな社会への視線がある。

1973年の「ビリー・ザ・キッド」も、無法者を英雄のように描いている。もっともこの映画では、英雄キッドは狡猾な賞金稼ぎによって殺されてしまうのではあるが。

1974年の「ガルシアの首」も賞金稼ぎの話だ。巨額の賞金のかかった首を、追い求める男たちの争奪劇だ。その過程で、賞金を懸けた男の卑劣さが明らかになる。その卑劣さが許せなくて、ガルシアの首を手に入れた賞金稼ぎは、依頼主を殺してしまうのである。

1977年の「戦争のはらわた」は、ペキンパーには珍しく戦争をテーマにしている。それもドイツ軍の視点から第二次大戦を描いた。ドイツ軍の視点から戦争を描くことは、戦後ながらく憚られていたので、ペキンパーのこの映画は、大いに話題を生んだ。

1983年の「バイオレント・サタデー」は、ペキンパーにとって遺作となった作品で、CIAの暴虐性をテーマにしている。それまでペキンパーが描いてきた暴力は、個人的でスケールの小さな暴力だった。この映画の中の暴力は、権力をかさにきて振るわれるので、スケールも壮大なら、残虐性も徹底している。暴力にこだわり続けてきたペキンパーとしては、究極の暴力を描き出したといってよい。

こんな具合にサム・パキンパーは、西部劇から出発して、さまざまなジャンルの映画を作るようになったが、かれの映画に共通した要素は、大きな悪への憎しみではないか。大きな悪の前では、小さな悪はたいしたものではない。むしろ小さな悪が大きな悪を倒すことにこそ、尽きせぬ醍醐味を感じるべきである。そんな姿勢をペキンパーは、つねに保ちつづけた。ここではそんなペキンパーの代表作を取り上げて、鑑賞のうえ適宜、解説・批評を加えたい。


サム・ペキンパー「昼下がりの決斗」:アメリカ西部の無法地帯

サム・ペキンパーワイルドバンチ(The wild bunch):西部劇の最後の大作


サム・ペキンパー「わらの犬」:暴力のための暴力


サム・ペキンパー「ゲッタウェイ」:壮大な逃走劇


サム・ペキンパー「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」:西部開拓時代の英雄


サム・ペキンパー「ガルシアの首」:ひたすた追い求める男


サム・ペキンパー「戦争のはらわた」:ドイツ軍退却戦


サム・ペキンパー「バイオレント・サタデー」:CIAの謀略活動




HOME| アメリカ映画









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2017
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである