壺齋散人の 映画探検
HOMEブログ本館美術批評東京を描く水彩画動物写真西洋哲学 プロフィール掲示板


フランク・キャプラ「或る夜の出来事」:ロード・ムーヴィーの古典



フランク・キャプラはウィリアム・ワイラーと並んで初期のハリウッド映画を代表する監督だ。1934年の作品「或る夜の出来事(It Happened One Night)」は、そのキャプラがはじめてアカデミー賞をとったもので、彼の代表作の一つである。いわゆるロードムービーの古典的傑作と言われている。ロードムービーというのは、一定の目的を持って或る場所をめざす人物が、その旅の途中で経験する様々な出来事を描くというものだが、この映画はそれに男女の恋愛をコメディタッチで絡ませ、楽しい雰囲気のものになっている。

この映画の舞台は長距離バスだ。このバスに一人の女が乗り込み、彼女を一人の男が追いかける。女は金持ちの令嬢で、父親のうるさい干渉から逃れて、恋人の処に身を預けに行こうとしている。彼女はその思いを遂げるために、父親と一緒に乗っていた船から飛び乗り、マイアミから長距離バスに乗って、恋人のいるニューヨークを目指すのだ。一方男のほうは、フリーランスのライターで、この女の逃避行を記事に書いて一儲けしようと考えている。そこで女の乗ったバスに自分も乗り込み、一乗客を装いながら彼女から色々興味ある情報を引き出そうとするのだ。

こうしてバスがニューヨークへ向かって走り続ける間に、様々なことが起こる。彼女の失踪が新聞で報道されたり、それを知ったある乗客が彼女を金儲けの手づるにしようと考えたり、それに対して男が防波堤となったり、また、途中でバスを降りてモーテルに泊まったり、そのモーテルの中では男女が部屋を共有したりと、色々な事が起こる。そしてそういう様々な体験を通じて、男女の心が通い合い、最後には愛し合うようになるという筋書きだ。

しかし、彼女はそもそも父親の束縛から逃れて恋人のもとに行こうとしていたはずだ。そんな彼女が何故、第三の男を愛するようになったのか。そこが疑問だ。場合によっては、この女はただの尻軽女に見えてしまう。ところがそうは見えない。というのは、彼女が恋人と思っていた男は、彼女のような女には相応しくないような年寄りなのだ。彼女がその年寄りを求めたのは、父親の干渉から逃れるためには、それしか方法がないと思い込んだからだった。つまり彼女は若さの至りで分別を欠いていたというわけである。だから、若くて魅力的な男が現れ、その男と二人きりで逃避行のようなことを続けていれば、自ずと恋が芽生えるという次第である。

そんな具合で、大方のロードムービーがそうであるように、この映画にもそんなに複雑な筋はない。ただひたすら目的地をめざすうちに、いろんな事が起こるというだけのことである。この映画の特徴は、これら男女の関わり合いがコメディタッチで描かれているということで、彼らの軽快な挙動が観客にさわやかな印象を与える。

この映画には、後にほかの映画に影響を与えたと思われる色々なシーンが出てくる。男女が一つの部屋に寝るシーンは「ローマの休日」に繋がり、ラストシーンで女が結婚式会場から逃げ去るところは「卒業」のラストシーンを思わせる。ほかにも色々興味深いシーンが盛り込まれている。そこからキャプラは映画作りの達人と呼ばれるようになったわけだ。

ライターを演じたクラーク・ゲーブルがなかなかよい。ハンサムでありながらユーモアを解する知的で明るい青年を心憎く演じている。ゲーブルというと、「風とともに去りぬ」などの重厚な演技が印象的だが、この映画の中での軽いタッチの演技も捨てたものではない。



HOMEフランク・キャプラ次へ









作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2013-2018
このサイトは、作者のブログ「壺齋閑話」の一部を編集したものである