壺齋散人の 映画探検 |
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ビリー・ワイルダーの1957年の映画「昼下がりの情事(Love in the Afternoon)」は、アメリカ人の女たらしの富豪とやせっぽちのパリジェンヌとの恋を描いたものである。「昼下がりの情事」という邦題からは、真っ昼間からセックスに耽る、といったイメージが思い浮かぶが、じっさいにはそんな不道徳な男女関係ではなく、ごくふつうの恋愛を描いている。 そんなわけで、たいした筋書きがあるわけではない。たまたまパリを訪れていたアメリカ人の富豪が、ひょんなことからやせっぽちのパリジェンヌと知り合い、次第に恋い焦がれていくさまを描いている。そのアメリカ人の富豪をゲーリー・クーパーが演じ、パリジェンヌをオードリー・ヘップバーンが演じているので、これは筋書きの転回よりも、俳優の色気のほうが観客にアピールするように出来ている。 この映画の時点で、ゲーリー・クーパーは56歳になっていた。若い娘に熱をあげる年ではない。そのクーパーが、男の色気を発散させながら、オードリー・ヘップバーン演じるパリジェンヌに夢中になるのである。そのアンマッチさが、この映画に独特の魅力をもたらしている。 一方、オードリー・ヘップバーンのほうは、まだ28歳で若さの盛りにある。その若さでなぜ、初老の男に惚れたか。その疑問がこの映画のミソである。彼女のほうがクーパーに一目ぼれし、彼女の熱意に応えるかたちでクーパーも彼女が好きになるといった展開なのだ。なにしろクーパーに見つめられたオードリーが、すっかり恍惚の表情に変るところなどは、人間の若い女というより、さかりのついたメスネコを思わせるくらいだ。 この男女の恋の仲立ちをつとめるのと客の依頼でクーパーの動向をさぐっていたのだったが、娘のオードリーがそれに横槍をいれるところから、物語が始まるというわけなのだ。 オードリーは音楽院の学生ということになっており、申し分のない恋人もいるのだが、なぜか初老の男に一目惚れしてしまう。しかもその男は、無類の女たらしなのだ。そんな女たらしを相手に、小娘ながら健闘する、その姿がいかにも勇ましく、女伊達を感じさせるというわけだ。 セックスシーンはないが、それを感じさせるシーンはある。クーパーの部屋で二人が過ごした時間のうち、空白の瞬間の直後に、オードリーが髪を治すシーンがある。これは抱き合ったために乱れた髪を治しているのだろうと思わせるのである。そんな具合だから、観客に想像力を働かせるようせまる作品である。 |
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