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スティーヴン・オカザキ「ヒロシマナガサキ」:原爆投下した米兵へのインタビュー



広島・長崎への原爆投下をテーマにしたドキュメンタリー映画「ヒロシマナガサキ」は、日系アメリカ人のスティーヴン・オカザキが作った。かれはこれを、原爆投下50周年を記念して作るつもりだったが、折からスミソニアン博物館での原爆展企画が物議をかもしていたこともあり、世論の反発を慮って見送り、60周年にあわせて製作しなおした。公開は2007年1月である。

広島・長崎で原爆投下に見舞われ、生き残った日本人及び原爆を投下した米兵等がインタビューに応じるという形で展開していく。見ての印象は、原爆投下への批判的視点がほとんどないことだ。あたかも自然現象のように、原爆災害を描いている。被害者の日本人自体が原爆を投下したアメリカ人を非難していないし、むしろアメリカ人に好意を抱いているように描かれる。アメリカ人のほうも、自分たちの行為を反省することはない。原爆投下に従事したある元米兵などは、被害者の日本人について同情も後悔もしていない、と公然と言い放っている始末だ。

その背景には、原爆投下によって日本の敗戦が早まり、多くのアメリカ人の命が救われたとする、いわゆる原爆神話がある。この神話は、今日では反駁されており、トルーマンは新兵器の威力をたしかめるために、いわばゲーム感覚で原爆を落としたといわれても仕方がないのだが、この映画の中のトルーマンは、アメリカ人にとって頼りになるリーダーとして描かれている。

このドキュメンタリー映画は、アメリカによる世界初の原爆投下を、なんとか合理化しようとする意図を感じさせ、見ていて胸糞の悪くなるようなところがある。日系人のオカザキが、どういうつもりでこんなものを作ったのか、その意図がわからない。



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