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深田晃司「よこがお」:日本社会の陰湿ないじめ体質



深田晃司の2019年の映画「よこがお」は、日本社会の陰湿ないじめ体質をテーマにした作品。甥が少女誘拐事件をおこしたために、事件とはなにも関係のない女性が、社会からすさまじいバッシングをうけ、居所を失うさまを描く。深田晃司の映画にはわかりにくいところが多かったのだが、この映画はわかりやすい。しかしそのわかりやすさが、テーマ設定の性格からして、非常な気味悪さを感じさせる。

主人公は、訪問看護婦をしている中年女性(筒井真理子)である。働きぶりがよく、また、人柄が患者から信頼されている。同僚の中年医師と婚約もしている。その彼女には甥がいて、その甥が、訪問先の家の少女(次女)を誘拐する。少女はすぐに戻ってきたが、猟奇的な事件としてマスコミの連中が騒ぐ。その騒ぎに巻き込まれて、この女性は次第に追い詰められていくのだ。

誘拐された次女には姉(長女)がいて、その長女が主人公の看護婦に同性愛を感じている。その長女が看護婦の立場を悪くする。看護婦は、事件を知って、犯人が自分の甥だとわかると、すぐに親に知らせようとするのだが、長女がそれを止めるのだ。理由は、看護婦が自分から遠ざってしまうのを嫌ったからだ。ところが、看護婦が自分の愛に応えてくれないのがわかると、今度は看護婦の中傷をはじめる。その中傷がマスコミの連中をたきつけ、看護婦は一斉砲火を浴びるような状態に陥る。最後には、日本社会のどこにも場所を見つけられないようになるのだ。

というわけで、一人の女性が、自分には関係のないことで、社会から攻撃され、ついには人間として破壊されていく過程を描いたもので、実に残酷で、おそろしい話である。その恐ろしい話が、日本でおこると、さもありなんという感じを持たされる。そういう残酷さを日本社会は内包しているというメッセージが伝わってくる映画である。つまり日本社会というのは、草の根全体主義社会だというわけであろう。

それは普通の日本人にとって、面白くないメッセージなので、深田のこの作品は、あまり受け入れられなかった。




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