壺齋散人の 映画探検 |
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橋口亮輔の2008年の映画「ぐるりのこと」は、なんとなく結婚している若い夫婦の日常を描いている。タイトルからして、かれらの周囲を描いているというふうに伝わってくる。ただ、全く無風な生活というわけではない。生れてきたばかりの子供が死んでしまうし、そのこともあって妻はうつ状態になってしまうし、夫のほうは、趣味の絵を仕事にできたはいいが、その仕事が法廷画家というやつで、被疑者の表情を身近に見て描かねばならない。ただ描くだけではなく、裁判の進行も見せられる。裁判にはひどい内容のものもあって(たとえば人肉食)、気の弱いものには直視できない。 とはいっても、たいして劇的な要素があるわけではない。セックスへの言及が多少過剰ぎみくらいだろう。そのセックスは、子供が生まれる前には、妻がリードしていた。妻は週に三回セックスするというルールを作り、夫の状態を勘案せずにセックスに駆り立てる。夫はやる気のないセックスを多少でも楽しもうとして、別の穴にアタックしたりする。妻は穴を間違えるなと言って怒る、といった具合の日常が、延々と繰り返されるのだ。 ともあれ、子供が生まれる前の1993年から十年間の夫婦の生活が淡々と描かれるのである。何が見どころかといえば、おそらくリリー・フランキー演じる亭主のひょうひょうとした構えと、何事もきっちりしなくてはすまない妻との、すれ違いだろう。すれ違ったままでも一緒に暮らしていけるというのが、この映画のもっとも有益なメッセージではないか。 すれ違い同士を比較すると、ひょうひょうとしているほうが勝ちである。きちきちしすぎていると、心に余裕がなくなり、やがてうつ病になったりする。そんな精神衛生上の教訓めいたメッセージも込められている。 |
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