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山本薩夫「華麗なる一族」:銀行家の野心



山本薩夫の1974年の映画「華麗なる一族」は、山崎豊子の同名の小説を映画化したもの。原作は、銀行のオーナー経営者の野心を描いたもので、ストーリー設定の巧みさから、実際にあったことのように思われたものだが、金融界の事情を参考にしたとはいえ、事実を描いたものではなく、あくまでフィクションである。だが、山本薩夫がそれを映画化すると、どういうわけかリアル感があふれ、まるで事実を踏まえたもののように感じさせる。

メーンストーリーは、主人公の野心と、かれをとりまく人間関係の複雑性をテーマにしている。見どころは二つある。一つは、佐分利信演じる主人公とその長男(仲代達也)との父子関係。父は息子の出生に疑惑を持っている。一方息子のほうは、父親が自分を冷たい目で見るのは、自分が父の子ではないためだと思っている。そんなことが背景にあって、息子は父と激しく対立し、ついに自殺してしまうのである。

もう一つは、主人公が妻のほかに妾をもつのはよいが、その妾を家の中に入れ、妻妾同居の状態を作っていること。しかもかれらは、寝室を同じくするのである。その妾を京マチ子が演じている。この映画に魅力があるとすれば、それは彼女の演技によるよるところが大きい。

その他の見どころは、1960年代の高度成長期における、経済界と政界との結びつきや、ライバル企業の間で繰り広げられる凄惨ともいえる戦いぶりだ。その戦いぶりを山本が、独特の視点から描いている。そこに観客は、山本一流の批判意識を感じさせられる。

フィクションとはいえ、主人公の銀行家は、にわか成金の三代目ということになっている。そのにわか成金がいっそう事業を拡大し、超一流の仲間入りを目指したいというのが、かれの行動を駆り立てる原動力になっている。そうした見立てが、山本の批判意識の根底にあるようだ。




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